チェンジスボウイ

1990年に世に出たデヴィッド・ボウイのキャリアを俯瞰するベスト・アルバム、『チェンジスボウイ』（原題: "Changesbowie"）は、彼の多岐にわたる音楽的変遷を一つの作品にまとめた重要なリリースです。このアルバムは、アメリカではRYKOレーベルから、イギリスおよびその他の地域ではEMIレーベルからそれぞれリリースされ、地域によってその形態や収録曲に差異が見られました。

発売の背景と形態

特にRYKOからは、当時精力的に進められていたデヴィッド・ボウイの過去作品のリマスター・シリーズの一環として企画されました。これは、彼の膨大なカタログを最新の技術で再構築し、音質の向上を図ることで、往年の名曲群に新たな息吹を与え、リスナーに高品質なサウンド体験を提供することを目的としていました。一方、EMIはボウイの主要な音源の権利を管轄しており、世界的な発売元としての役割を担いました。

商業的成功

『チェンジスボウイ』は商業的にも大きな成功を収めました。特に、彼の母国であるイギリスでは、権威ある全英アルバムチャートにおいて見事首位を獲得しています。これは、1984年にリリースされたスタジオ・アルバム『トゥナイト』以来、実に6年ぶりとなるNo.1記録であり、デヴィッド・ボウイにとってキャリア通算7作目の全英1位アルバムとなりました。この成功は、彼が時代を超えて愛されるアーティストであること、そして過去の作品群へのリスナーの関心の高さを示すものと言えるでしょう。

アートワーク

アルバムの印象的なカバーアートワークは、写真家としても知られるデザイナー、デビッド・バックリーによって手掛けられました。ボウイの多様なペルソナや音楽スタイルの変化（Changes）を象徴するかのようなデザインは、作品のコンセプトと深く結びつき、視覚的にもリスナーに強い印象を与えています。

収録曲の特徴

本作の収録曲の構成は、興味深い特徴を持っています。アルバムの冒頭を飾る1曲目から11曲目までの選曲と並び順は、1976年にRCAレコードから発売されたデヴィッド・ボウイ初期の代表的なベスト・アルバム『魅せられし変容〜ベスト・オブ・デヴィッド・ボウイ』の内容と基本的に共通しています。これにより、初期グラムロック期から『ステイション・トゥ・ステイション』期までの主要な楽曲群が、新たな音質で再提示される形となりました。

ただし、いくつかの重要な変更点が存在します。最も特筆すべきは、アルバム『ヤング・アメリカンズ』に収録されヒットした代表曲「フェイム」が、オリジナル・バージョンではなく、この『チェンジスボウイ』のために新たにリミックスされたバージョン、「フェイム'90」に差し替えられている点です。これは、当時の音楽シーンのサウンドを取り入れた、よりダンサブルなアレンジが施されており、発表当時のサウンドとの違いを楽しむことができます。

さらに、リリースされた地域や物理的な形態によって収録曲が異なるという点も、『チェンジスボウイ』の複雑さを物語っています。特にイギリスをはじめとするEMIから発売されたLP（2枚組）やカセット（2本組）といった一部のフォーマットでは、「スターマン」（アルバム『ジギー・スターダスト』収録）、「火星の生活 (Life on Mars?)」（アルバム『ハンキー・ドリー』収録）、「サウンド・アンド・ヴィジョン (Sound and Vision)」（アルバム『ロウ』収録）といった、初期から中期にかけての非常に重要な楽曲が追加収録されました。これにより、これらのバージョンは、より網羅的にデヴィッド・ボウイのキャリア初期から中期にかけての楽曲をカバーする内容となっています。

アルバムの意義

『チェンジスボウイ』は、単なる既存曲の寄せ集めではなく、過去の重要作品のリマスターや、既存曲の新バージョン「フェイム'90」の収録、そして旧ベスト盤『魅せられし変容』との関連性を持たせた選曲構成といった要素から、当時のボウイのカタログ再構築という文脈の中で重要な位置を占める作品と言えます。また、このアルバムによって、彼のデビューから90年までに至る音楽性の変化（Changes）が改めて提示され、新規リスナーにとってはボウイの世界への優れた入門編となり、長年のファンにとってはリマスターされたサウンドや「フェイム'90」、そして形態ごとの収録曲の違いを楽しむことができる作品となりました。詳細な発売形態や収録曲のバリエーションについては、Discogsなどの外部データベースでも確認することができます。

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