チャボカラマツ

チャボカラマツ（矮鶏唐松）

チャボカラマツ（学名：Thalictrum foetidum var. glabrescens）は、キンポウゲ科カラマツソウ属に分類される多年草です。基本種であるニオイカラマツ（T. foetidum var. foetidum）の変種として知られています。名前の由来は、植物学者の武田久吉が1910年に発表した際に、「チャボ（矮鶏）」、つまり小さいカラマツという意味で名付けられました。

特徴

チャボカラマツは、植物体に微細な腺毛を持つことが特徴です。根茎は肥大せず、匍匐枝を伸ばすこともありません。茎は斜め上にジグザグと伸び、高さは10cmから50cm程度になります。茎は1～3回程度分枝します。根元から生える葉（根出葉）は1枚あるかないかで、長い葉柄を持ち、3～5回3出複葉という複雑な形をしています。茎につく葉（茎葉）は互い違いに数枚生え、2～4回3出複葉で、灰緑色の小葉は倒卵形から卵形、または広卵形をしています。小葉の大きさは0.3～1.5cm程度で、浅く3つに裂けており、葉の表面の葉脈はへこみ、裏面は隆起しています。葉の裏面は表側よりも色が薄いです。葉柄の付け根にある托葉は褐色で膜質ですが、小葉柄の付け根には小托葉はありません。

花期は5月から6月で、総状または円錐状の花序に4～15個程度の花を咲かせます。花は直径0.5～1cmで、花柄は1～2.5cmと長く、下向きに咲きます。萼片は4～5枚で、長さ2～4mmの楕円形、紫褐色をしており、すぐに落ちてしまいます。花弁はありません。雄しべは多数あり、長さは5～10mm、葯は鮮やかな黄色で長さ2～3mm、花糸は糸状で葯よりも細く紫褐色、葯隔は突出します。雌しべは2～6個あります。果実は長さ4mmほどの紡錘形で、少し平たい痩果で、2～6個まとまってつき、表面に腺毛があるものと無いものがあります。果実には縦に8～10本の稜があり、果柄はありません。痩果の先端に残る花柱は長さ0.5mmで、先は曲がらず、柱頭は矢じり状になります。染色体数は2n=14です。

分布と生育環境

チャボカラマツは日本固有の変種で、北海道の道央地域と本州の岩手県に分布しています。温帯から亜寒帯の岩礫地に生育し、特に超塩基性岩地や石灰岩地を好みます。

名前について

和名「チャボカラマツ」は、その名の通り、全体的に小型であることから名付けられました。種小名のfoetidumは「悪臭のある」、変種名のglabrescensは「やや無毛の」を意味します。

保全状況

環境省のレッドリストでは、絶滅危惧II類（VU）に指定されており、都道府県レベルでは、岩手県がBランクに指定しています。これは、生育環境の悪化や個体数の減少により、絶滅の危険性が高いことを示しています。

基本種と変種

チャボカラマツの基本種であるニオイカラマツ（Thalictrum foetidum）は、植物全体に腺毛が密生し、特有の悪臭を放ちます。ユーラシア大陸に広く分布していますが、日本産のニオイカラマツはチャボカラマツに統合されました。

また、チャボカラマツの他に、アポイカラマツ（Thalictrum foetidum var. apoiense）という変種も存在します。アポイカラマツは、植物体が小型で、葉が厚く、小葉の長さが3～7mmと小さいのが特徴です。葉の表面に腺毛がなく、裏面の白さや葉脈の隆起が目立ちます。果実は3～4個つきます。北海道のアポイ岳周辺と後志の大平山に分布しています。

分類上の特徴

チャボカラマツは、アキカラマツ節に属し、萼片が早く落ち、雄しべが下垂し、花糸が糸状で、その先の葯が花糸より太く、やや長いという特徴を持っています。形態的には、ヒメカラマツ（T. alpinum var. stipitatum）に似ていますが、分布地や花期が異なります。チャボカラマツは北海道と岩手県に分布し、花期は5～6月、ヒメカラマツは本州の高山帯に分布し、花期は7～8月です。また、チャボカラマツは茎が1～3回分枝し、花序が散房花序であるのに対し、ヒメカラマツは茎が分枝せず、花序は総状[[花序]]です。

脚注

本記事は、以下の文献を参考に作成しました。

佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本II離弁花類』、1982年、平凡社
高橋勝雄『野草の名前 春 山溪名前図鑑』、2002年、山と溪谷社
梅沢俊『新北海道の花』、2007年、北海道大学出版会
矢原徹一他監修『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ（増補改訂新版）』、2015年、山と溪谷社
大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 2』、2016年、平凡社
牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」（YList）
Var. nov. GLABRESCENS Takeda, The Journal of Botany, 48: 266 1910.
* 日本のレッドデータ検索システム

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