カラマツソウ属

カラマツソウ属 (Thalictrum) について

カラマツソウ属は、キンポウゲ科に属する多年草のグループです。その最大の特徴は、花弁を持たず、雄しべの花糸が顕著に発達することです。この花糸の様子が、マツ科のカラマツの短枝に似ていることから、その名前が付けられました。世界には約150種が分布し、北半球の温帯から寒帯にかけて広く見られます。日本国内にも21種7変種が確認されており、多様な生態と形態を示しています。

特徴

カラマツソウ属の植物は、根茎が木質化する多年草で、根から生える葉には長い葉柄があります。茎につく葉は通常互生で、1-5回の3出複葉（まれに単葉）を形成し、小葉は種によって倒卵形、卵形、線状楕円形など様々な形状をしています。葉柄の基部には、暗褐色の膜質の托葉や小托葉が見られることもあります。

茎には腺毛や腺点が見られることがあり、異臭を放ったり、粘着性を持つ種も存在します。花序は茎の先や葉の付け根から出て、散房状、円錐状、または散形に花を咲かせます。花は通常両性ですが、まれに単性のものもあります。萼片は4-5個で、多くは早落性ですが、まれに宿存するものもあります。花弁は無く、多数の雄しべが半球状に整列し、花糸は種によって様々に発達します。雌しべは2-40個あり、果実は側面に翼または稜のある痩果となります。

染色体の基本数はx=7です。

分布

カラマツソウ属は、北半球の暖帯から寒帯にかけて広く分布し、南アメリカやアフリカ南部にも少数の種が見られます。日本では、北海道から九州にかけて、山地や草原、湿地など様々な環境に生育しています。

利用と注意点

カラマツソウ属の植物には、アルカロイド類が含まれており、過去には腹痛や下痢の治療に用いられたこともありますが、神経麻痺や血圧降下を引き起こす有毒[[植物]]でもあります。利用の際には専門家の指導が必要です。

名前と由来

属名「カラマツソウ」は、先に述べたように、雄しべの様子がカラマツの短枝に似ていることに由来します。学名「Thalictrum」は、1世紀のギリシアの医師ディオスコリデスが用いた植物名「thaliktron」に由来します。

日本に分布する主な種

日本に分布する主な種と、その特徴、分布、保全状況を以下にまとめます。

カラマツソウ節 (Sect. Tripterium)

カラマツソウ (Thalictrum aquilegiifolium var. intermedium)：高さ200cmに達することもある大型種。北海道から本州の高山まで分布。
マンセンカラマツ (Thalictrum aquilegiifolium var. sibiricum)：痩果の先端が切頭または凹頭になるのが特徴。絶滅危惧IB類(EN)。

ハルカラマツ節 (Sect. Baicalensia)

ハルカラマツ (Thalictrum baicalense)：黄白色の萼片を持つ。絶滅危惧II類(VU)。

ミヤマカラマツ節 (Sect. Physocarpum)

オオミヤマカラマツ (Thalictrum filamentosum)：小葉の裏面の葉脈が隆起しない。九州に分布。
ナガバカラマツ (Thalictrum integrilobum)：小葉が線状楕円形。絶滅危惧II類(VU)。
ツクシカラマツ (Thalictrum kiusianum)：九州原産の栽培[[植物]]。
コゴメカラマツ (Thalictrum microspermum): 小葉が薄く、倒卵状菱形から菱形。絶滅危惧II類(VU)
ヒメミヤマカラマツ (Thalictrum nakamurae): 小型で、渓谷の湿った岩上に生える。準絶滅危惧(NT)
ヒレフリカラマツ (Thalictrum toyamae)：萼片が宿存する。絶滅危惧IB類(EN)。
ミヤマカラマツ (Thalictrum tuberiferum)：日本各地に分布する。痩果が三日月形。
ヤクシマカラマツ (Thalictrum tuberiferum var. yakusimense)：屋久島の特産。
ムラサキカラマツ (Thalictrum uchiyamae)：濃紫色の萼片を持つ。絶滅危惧IB類(EN)で国内希少野生動植物種。
ウジカラマツソウ (Thalictrum ujiinsulare): 宇治群島に分布。絶滅危惧IA類(CR)
タマカラマツ (Thalictrum watanabei): 谷間や林下の湿った岩場に生育。絶滅危惧II類(VU)。

シキンカラマツ節 (Sect. Purpurea)

シロカネカラマツ (Thalictrum koikeanum)：2011年に新種記載された種。広島県東北部の特産。
シキンカラマツ (Thalictrum rochebruneanum)：淡紅紫色の萼片を持つ。

アキカラマツ節 (Sect. Thalictrum)

ヒメカラマツ (Thalictrum alpinum var. stipitatum)：高山帯に生育する小型種。
チャボカラマツ (Thalictrum foetidum var. glabrescens)：茎がジグザグに伸びる。絶滅危惧II類(VU)。
アポイカラマツ (Thalictrum foetidum var. apoiense): チャボカラマツより小型で、北海道に分布。絶滅危惧II類(VU)。
タイシャクカラマツ (Thalictrum kubotae)：腺毛が多く、悪臭がある。準絶滅危惧(NT)。
アキカラマツ (Thalictrum minus var. hypoleucum)：日本各地に広く分布。
オオカラマツ (Thalictrum minus var. kemense)：アキカラマツより高い場所に生える。
ミョウギカラマツ (Thalictrum minus var. chionophyllum): 岩壁から懸垂する。絶滅危惧IA類(CR)
イシヅチカラマツ (Thalictrum minus var. yamamotoi)：葉の裏面に腺点がある。絶滅危惧IB類(EN)。
イワカラマツ (Thalictrum sekimotoanum)：腺毛が密生し粘る。絶滅危惧II類(VU)。
ノカラマツ (Thalictrum simplex var. brevipes)：日当たりの良い場所に生育。絶滅危惧II類(VU)。
カルイザワカラマツ (Thalictrum × karuizawaense)：アキカラマツとノカラマツの交雑種。

エゾカラマツ節

エゾカラマツ (Thalictrum sachalinense)：北海道に分布。

シギンカラマツ節 (Sect. Erythrandra)

シギンカラマツ (Thalictrum actaeifolium)：林縁に生育する。

その他の主な種

チョウセンシギンカラマツ (Thalictrum actaeifolium var. brevistylum)：シギンカラマツの変種で、萼片が淡紅紫色。
チシマヒメカラマツ (Thalictrum alpinum var. alpinum)：ヒメカラマツの基本種。
ハスノハカラマツ (Thalictrum coreanum)：朝鮮半島原産の栽培種。
イトバカラマツ (Thalictrum foeniculaceum)：中国大陸に分布。
トウハスノハカラマツ (Thalictrum ichangense)：中国大陸に分布。
コバカラマツ (Thalictrum myriophyllum)：台湾に分布。
ヒカゲカラマツ (Thalictrum osmorhizoides)：朝鮮半島に分布。
ハナカラマツ (Thalictrum petaloideum var. petaloideum)：東アジアに分布。
ヤチマタカラマツ (Thalictrum petaloideum var. supradecompositum)：中国大陸に分布。
ナンコカラマツ (Thalictrum rubescens)：台湾に分布。
ニイタカカラマツ (Thalictrum sessile):台湾に分布。
シベリアノカラマツ (Thalictrum simplex var. simplex): ユーラシア大陸に分布。
ツリフネカラマツ (Thalictrum sparsiflorum)：北半球に分布。
エダハリカラマツ (Thalictrum squarrosum)：中国大陸東北部、モンゴル、シベリアに分布。
タカサゴカラマツ (Thalictrum urbainii)：台湾に分布。



この情報は、カラマツソウ属の多様性と複雑さを示すものです。それぞれの種が持つ独特の特徴を理解することで、植物の世界の奥深さを感じることができます。

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