チャーチ・ロック鉱滓ダム汚染水流出事故

チャーチ・ロック鉱滓ダム汚染水流出事故

1979年7月16日、アメリカ合衆国ニューメキシコ州で、チャーチ・ロック鉱滓ダムから大量の放射性物質を含む汚染水が流出する事故が発生しました。この事故は、原子力発電所などでの事故とは異なり、ウラン鉱山の採掘過程で生じた放射性廃棄物を貯めていたダムの決壊によって引き起こされました。流出した汚染水は1,100トンを超え、プエルコ川とその周辺地域を広範囲に汚染しました。

事故の経緯

事故を引き起こした汚染水貯水池は、以前から小規模な亀裂が確認されていました。しかし、所有していたユナイテッド・ニュークリア・コーポレーション（UNC）は、その場しのぎの修繕しか行わず、定期的な検査や根本的な対策を怠っていました。その結果、1979年7月16日の早朝、貯水池は決壊し、大量の汚染水がプエルコ川に流れ込みました。

事故の原因

この事故の根本的な原因は、UNC社の杜撰なリスクマネジメントにありました。鉱滓ダムの設計・建設段階から、放射能汚染のリスクが十分に検討されておらず、構造的な欠陥により、選鉱くずによる地下水汚染が発生していました。また、UNC社は適切なメンテナンスを怠り、貯水池に生じた亀裂に対しても、根本的な修繕を行いませんでした。これらの要因が重なり、1979年の大規模な決壊事故と放射能汚染につながったのです。

事故の影響

事故発生直後、プエルコ川の放射線量は、飲料水として許容される基準の7,000倍に達しました。UNC社は、事故現場から放出された放射能を1キュリーと発表しましたが、実際には46キュリー（1.7テラベクレル）もの放射能が放出されていたとされています。

プエルコ川周辺の住民、特に多数を占める先住民族のナバホ族は、生活用水として川の水を使用し、河川敷を遊び場としても活用していました。そのため、事故による健康被害は深刻でした。しかし、近隣の医療施設は放射能汚染事故の実態を十分に把握しておらず、皮膚の炎症などの放射線障害を起こした住民を熱中症と誤診する事態も発生しました。

除染の遅れ

この事故は、都市部から離れたナバホ・ネイションの山間部で発生し、被害者の多くが先住民族や鉱山労働者などの貧困層であったため、世論やメディアの関心が薄く、除染作業は遅々として進んでいません。21世紀に入っても、汚染された土壌の多くが放置されたままとなっており、地下水汚染も依然として進行しています。この問題は、環境正義の観点からも、深刻な課題として捉えられています。

類似の事故

過去には、1950年代にソ連で発生したウラル核惨事のような、放射性廃棄物による近隣住民への健康被害が報告されています。この事故も、チャーチ・ロック事故と同様に、放射性物質による深刻な環境汚染と住民の健康被害を引き起こしました。

まとめ

チャーチ・ロック鉱滓ダム汚染水流出事故は、企業の利益追求と安全管理の欠如がもたらした、悲劇的な原子力事故です。この事故は、環境保護やリスクマネジメントの重要性を改めて私たちに示唆しています。また、社会的に弱い立場に置かれた人々が、環境汚染による被害をより受けやすいという現実も浮き彫りにしました。事故から長い年月が経過した現在でも、汚染は完全には解消されておらず、被害を受けた人々は、健康被害や環境汚染の後遺症に苦しんでいます。

脚注

この事故は、原子力発電所事故とは異なるタイプの原子力事故であり、放射性廃棄物の管理の重要性を示しています。
事故後の除染作業の遅れは、環境正義の観点からも問題視されています。
* この事故を教訓として、放射性廃棄物の管理体制の強化が求められています。

もう一度検索