有鉛ガソリン

有鉛ガソリンについて

有鉛ガソリンとは、微量のアルキル鉛が添加されたガソリンを指し、その中でも特にテトラエチル鉛が多く使用されていました。これらの成分は、レシプロエンジンのノッキング防止として機能し、無鉛ガソリンに比べてオクタン価を高めます。しかし、これらの鉛化合物は非常に有毒であり、吸入や皮膚接触により体内に吸収され、中枢神経系に深刻な影響を及ぼすことがあります。

歴史的背景

有鉛ガソリンは、1930年代から広く使用され、特に第二次世界大戦中から1970年代にかけて自動車燃料として普及していました。しかしその後、健康への影響が明らかになるにつれ、その使用が問題視されました。日本では1975年にレギュラーガソリンが完全に無鉛化され、高オクタン価のガソリンも1987年に無鉛化が完了しました。この過程で、1980年頃まではわずかにハイオクガソリンにアルキル鉛が使用されていましたが、現在は他の添加剤に移行しています。

規制と廃止の動き

日本では、揮発油等品質確保法に基づき、1990年代以降、有鉛ガソリンの販売が全面的に禁止されました。また、特定毒物としての鉛濃度の規制も施行され、航空用ガソリンにおいても着色が義務付けられています。アメリカでも1995年に大気浄化法により有鉛ガソリンは規制され、世界的な無鉛化が進みました。

エチルの発見

有鉛ガソリンの添加物としてのテトラエチル鉛は、1921年に米国の科学者トマス・ミジリーによって発見されました。彼は、不完全燃焼を防ぐ効果を示し、その特許はゼネラルモーターズに移管されました。企業は当時エタノールを燃料として使用していたため、有鉛ガソリンへの移行を進めたのです。その結果、エチルガソリンと呼ばれる製品が市場に登場しましたが、鉛の毒性に関する認識の向上により問題視されるようになりました。

有鉛ガソリンの問題点

1960年代には環境問題が顕在化し、鉛中毒は社会問題として認識され始めました。特に日本では、「牛込柳町鉛中毒事件」が契機となり、多くの人々が鉛の影響を受けているかもしれないという懸念が広まりました。その後、厚生省は鉛に関する環境基準を設定し、政府は無鉛化への流れを加速させました。

日本においては、1975年以降に製造された自動車には「無鉛ステッカー」が貼られることになり、有鉛仕様車と無鉛仕様車が明確に区別されることとなりました。赤色のステッカーは有鉛ガソリン仕様の車に対して、青色のものは無鉛仕様の車両に貼付されます。

現在の状況

有鉛ガソリンはもはや自動車には使用されず、主に航空用に限られていますが、環境への負荷が大きいことからその使用も制限されています。現在でも有鉛ガソリン車の維持管理は必要で、燃料選びやエンジンの調整が重要とされています。特に、古い車両では無鉛ガソリンへの切り替えに伴う影響を考慮しなければなりません。今後もこの問題は引き続き注視されるでしょう。

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