チャールズ・サムナー・テンター

チャールズ・サムナー・テンター：トーキングマシンの父

チャールズ・サムナー・テンター（Charles Sumner Tainter, 1854年4月25日 - 1940年4月20日）は、アメリカ合衆国を代表する科学機器製作者、エンジニア、そして発明家です。アレクサンダー・グラハム・ベルとの共同研究や、トーマス・エジソンの蓄音機を大幅に改良したグラフォフォンの開発者として、その名を歴史に刻みました。テンターは後に「トーキングマシンの父」とも呼ばれるようになり、その革新的な業績は、後のオーディオ技術の発展に大きな影響を与えました。

生い立ちと初期のキャリア

テンターはマサチューセッツ州ウォータータウンで生まれ、公立の小中学校で基礎教育を受けました。彼は高校や大学には進学せず、ほぼ独学で知識を深めたという点も特徴的です。1873年、テンターはマサチューセッツ州ケンブリッジにある望遠鏡製造会社、アルバン・クラーク・アンド・サンズ社に就職しました。1874年には、金星の太陽面通過観測のためにアメリカ海軍が派遣した観測隊員として、ニュージーランドへ渡るという貴重な経験をしています。

アレクサンダー・グラハム・ベルとの出会い

1878年、テンターはマサチューセッツ州ケンブリッジポートで理化学機器の製造販売店を開業しました。ここで、アレクサンダー・グラハム・ベルと運命的な出会いを果たします。その翌年、ベルからの誘いを受け、ワシントンD.C.のボルタ研究所で研究を始めることになりました。この数年間、テンターはベルと共に数々の発明に尽力し、中でもフォトフォンと蓄音機の開発に力を注ぎました。

グラフォフォンの開発

テンターは、ベル夫妻と共にエジソンの初期の蓄音機を大幅に改良し、グラフォフォンの開発に成功しました。この画期的な発明により、テンターはベル夫妻と共に複数の特許を取得しています。しかし、後にエジソンは、テンターが経営するボルタ・グラフォン・カンパニーを特許侵害で訴えるという事態が発生しましたが、最終的には両者の間で和解が成立しました。

その後の活動と晩年

1886年、テンターはライラ・R・マンローと結婚しました。その後数年間、ワシントンD.C.で働きながらグラフォフォンの完成度を高め、録音機として販売する会社を設立しました。1887年には、グラフォフォン・シリンダーの改良版として、螺旋状に巻いた紙管を発明しました。この紙管は、当初の目的とは異なり、郵送用チューブや製品容器として広く利用されるようになりました。1888年に重度の肺炎を患い、その後も体調を崩しやすくなったため、1903年に妻と共にカリフォルニア州サンディエゴに移住しました。1924年に最初の妻を亡くし、1928年にローラ・F・オンダードンクと再婚しています。グラフォフォン開発の功績により、テンターは数々の賞を受賞しました。

未発表資料と遺産

テンターの死後、1947年に妻ローラは、テンターの未発表の文章をスミソニアン協会の国立アメリカ歴史博物館に寄贈しました。これらの資料には、1880年代にボルタ研究所で行ったプロジェクトの詳細を記録した「ホームノートブック」や、「チャールズ・サムナー・テンターの回想録」の原稿が含まれていました。特に回想録には、1887年までのテンターの経験や、グラフォフォン工場での仕事ぶりが詳細に記されています。

受賞と栄誉

テンターの数々の功績は、多くの賞と栄誉によって称えられました。

1881年のパリ電気博覧会では、前年のフォトフォン共同発明に対して金メダルを受賞。
1889年、グラフォフォン発明の功績により、フランス政府から教育功労章オフィシエの称号が授与。
1915年のサンフランシスコ万国博覧会では、グラフォフォンの功績により金メダルを受賞。
1934年12月、アメリカ科学振興協会から名誉終身会員に任命。

特許

テンターは、アレクサンダー・グラハム・ベルやチチェスター・ベルと共に、数多くの特許を取得しています。以下に代表的なものを紹介します。

アメリカ合衆国特許第 235,496号：フォトフォントランスミッター（1880年12月発行）
アメリカ合衆国特許第 235,497号：セレンセル（1880年12月発行）
アメリカ合衆国特許第 235,616号：セレンの電気伝導率を高めるための処理方法（1880年12月発行）
アメリカ合衆国特許第 241,909号：フォトフォニックレシーバー（1881年5月発行）
アメリカ合衆国特許第 336,173号：電話トランスミッター（1886年2月発行）
アメリカ合衆国特許第 341,212号：蓄音機レコードからの音声再生（1886年5月発行）
アメリカ合衆国特許第 341,213号：放射エネルギーによる音声の伝送と録音（1886年5月発行）
アメリカ合衆国特許第 341,214号：音声やその他の音の録音と再生（1886年5月発行）
アメリカ合衆国特許第 341,288号：音声録音・再生装置（1886年5月発行）
アメリカ合衆国特許第 374,133号：グラフォフォンレコード用ペーパーシリンダー（1887年11月発行）
アメリカ合衆国特許第 375,579号：音声やその他の音を記録・再生するための装置（1887年12月発行）
アメリカ合衆国特許第 380,535号：グラフォフォン（1888年4月発行）
アメリカ合衆国特許第 421,450号：グラフォフォンタブレット（1890年2月発行）
アメリカ合衆国特許第 428,646号：グラフォフォン用ワックスコートタブレット製造機（1890年5月発行）

結論

チャールズ・サムナー・テンターは、自らの手で新しい時代を切り開いた稀代の発明家でした。彼の残した遺産は、今日のオーディオ技術の発展に欠かせないものであり、その功績は永遠に語り継がれることでしょう。

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