チュウヒ

チュウヒ（沢鵟）について

チュウヒ（学名: Circus spilonotus）は、タカ目タカ科チュウヒ属に分類される鳥類です。その名前は、空を舞う様子から「宙飛」に由来するとも言われますが、実際には低空飛行を得意としています。一方で、ノスリはチュウヒよりも高空を飛ぶことが多いため、名前が入れ替わって記録されたという説もあります。しかし、生態を詳しく見ると、チュウヒが繁殖期に中空を舞う姿や、ノスリが狩りの際に地面を這うように飛ぶ姿から、それぞれの名が適切である可能性が高いです。

分布

チュウヒは、北アメリカ大陸北部やユーラシア大陸北部で繁殖し、冬になると越冬のため南下します。日本では冬鳥として飛来し、かつては北海道や本州北部で繁殖していましたが、近年では中部地方、近畿地方、中国地方でも繁殖が確認されています。

形態

オスの全長は約48cm、メスは約58cmで、メスの方が大型です。体色は地域や個体によって変異が大きく、特にオスは多様な色彩を示します。オスは頭部、背面、雨覆、初列風切羽の先端が黒く、腹部は白い羽毛に覆われます。尾羽の背面には白い斑紋があり、個体によっては頭部が黒いものや、全体的に白っぽいものもいます。一方、メスは全身が褐色の羽毛で覆われ、腹面には淡褐色で褐色の斑紋が見られます。以前は大陸型、国内型と分類されることもありましたが、これは誤解を招く表現とされ、現在は用いられていません。

生態

チュウヒは、草原や湿地、ヨシ原などに生息します。食性は肉食で、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、小型哺乳類などを捕食します。地上付近を低空飛行し、獲物を探すのが特徴です。繁殖期には、ヨシ原などに枯れ草を積み重ねた巣を作り、5月から6月にかけて4〜6個の卵を産みます。抱卵期間は約35日間で、主にメスが抱卵します。雛は孵化後約37日で巣立ちます。

狩りの際には、V字翼で低空を低速飛行することが多く、一方で繁殖期のペアリングの際には中空を舞うように飛行することもあります。これは「宙飛」と呼ばれる所以でしょう。また、垂直離着陸が可能な唯一の猛禽であるとも言われています。

人間との関係

チュウヒは、生息地であるヨシ原の開発により生息数が減少しています。また、石川県河北郡内灘町では「町の鳥」に指定されています。

保全状況

国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは、軽度懸念（LEAST CONCERN）と評価されていますが、日本では環境省レッドリストで絶滅危惧IB類（EN）に指定されており、保護の必要性が指摘されています。また、ワシントン条約附属書IIにも掲載されています。

その他

チュウヒの英名は「Harrier」であり、イギリスの垂直離着陸戦闘爆撃機であるハリアーの名前は、この鳥の能力に由来していると考えられます。

参考文献

高野伸二編　『山渓カラー名鑑 日本の野鳥 2版』　山と渓谷社、1993年、163頁。
小宮輝之監修　『原色ワイド図鑑 鳥』　学習研究社、2002年（改訂新版）、210頁。

関連項目

ヨーロッパチュウヒ
チュウヒ属
* ハリアー（チュウヒの英名）

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