ツェサレーヴィチ

ツェサレーヴィチ：ロシア皇帝の法定相続人

ツェサレーヴィチ（Цесаре́вич）は、ロシア皇帝の法定推定相続人、もしくは推定相続人に与えられた称号です。一般的には「ロシア皇太子」と訳されます。名前や父称の前に付け加えて使用され、場合によっては名前の代わりに用いられることもありました。

ツァレーヴィチとの違い

しばしば「ツァレーヴィチ」と混同されますが、両者には明確な違いがあります。ツァレーヴィチは単にツァーリの息子であれば誰でも名乗ることができた称号であり、ロシア国外の支配者にも用いられていました。一方、ツェサレーヴィチは、コンスタンチン・パヴロヴィチ大公の例外を除き、常にただ一人の人物だけが持つ称号でした。公式には「世継ぎ（Наследник）」という敬称と併用され、「世継ぎ皇子にして大公（Наследник-Цесаревич и Великий Князь）殿下」のように用いられました。ツェサレーヴィチの妻はツェサレーヴナ（Цесаревна）と呼ばれました。

歴史

1721年、ピョートル1世が皇帝の称号を採用したことに伴い、ツァレーヴィチとツァレーヴナ（ツァーリの娘の称号）は廃止されました。ピョートル1世には当時息子がおらず、娘たちはツェサレーヴナ（皇帝の娘）と呼ばれました。その後、1762年にピョートル3世が、息子パーヴェル・ペトロヴィチに「ツェサレーヴィチ」の称号を与えました。これが、ロマノフ家におけるツェサレーヴィチの称号の始まりです。しかし、当初は単にピョートル3世の嫡男であることを意味するものであり、必ずしも後継者としての意味合いは強くありませんでした。パーヴェルは、ツァーリの称号を用いる以前のモスクワ支配者の称号である「大公」の称号で呼ばれることも多かったのです。

パーヴェル1世は1796年に帝位を継承すると、すぐに長男にツェサレーヴィチの称号を与え、翌1797年には帝位継承法において、ツェサレーヴィチを帝位継承者の公式称号と規定しました。しかし、コンスタンチン・パヴロヴィチ大公は、兄アレクサンドル・パヴロヴィチ（後のアレクサンドル1世）と並立してツェサレーヴィチの称号を有し、帝位継承権を放棄した後も称号を保持したという例外がありました。コンスタンチン・パヴロヴィチの死後、1894年までは常に皇帝の長男がツェサレーヴィチの称号を与えられてきました。ニコライ2世は、息子が生まれるまでという条件で、弟ゲオルギー・アレクサンドロヴィチ大公にこの称号を与えたこともありました。しかし、ゲオルギーの死後、ミハイル・アレクサンドロヴィチ大公にはこの称号は与えられず、1904年に生まれたアレクセイ・ニコラエヴィチが、最後のツェサレーヴィチとなりました。

帝政廃止後

帝政廃止後も、亡命皇帝を自称する者によって、ツェサレーヴィチの称号が使用されました。キリル・ウラジーミロヴィチ大公は長男に、また1997年からは、ゲオルギー・ミハイロヴィチ・ロマノフが母親からこの称号を授けられました。しかし、ロシア帝国崩壊後も、ロシアの人々の中には皇帝を「ツァーリ」と呼ぶ習慣が残っており、ツェサレーヴィチの称号よりも「ツァレーヴィチ」や「大公」の呼称の方が一般的だったと考えられます。特に、一般庶民の間では、この称号はあまり知られていませんでした。

歴代のツェサレーヴィチ

パーヴェル・ペトロヴィチ（1761年-1796年、のちのパーヴェル1世）
アレクサンドル・パヴロヴィチ（1796年-1801年、のちのアレクサンドル1世）
コンスタンチン・パヴロヴィチ（1799年-1831年）
アレクサンドル・ニコラエヴィチ（1831年-1855年、のちのアレクサンドル2世）
ニコライ・アレクサンドロヴィチ（1855年-1865年）
アレクサンドル・アレクサンドロヴィチ（1865年-1881年、のちのアレクサンドル3世）
ニコライ・アレクサンドロヴィチ（1881年-1894年、のちのニコライ2世）
ゲオルギー・アレクサンドロヴィチ（1894年-1899年）
アレクセイ・ニコラエヴィチ（1904年-1917年）

関連項目

法定推定相続人
推定相続人
ロシア皇太子ハンデキャップ（イギリスの競馬競走）

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