ツガカレハ

ツガカレハは、昆虫の分類におけるチョウ目、その中のカレハガ科に属する一種のガです。学名はDendrolimus superansとして知られています。このガは、日本列島の非常に広い範囲、具体的には北海道から本州、四国、九州にかけて、ほぼ全国的に分布しています。特に、その幼虫が特定の種類の樹木を食害することから、林業関係者や自然愛好家の間で関心を持たれる存在です。

成虫のツガカレハは、その外見において派手さはありません。全体的に淡い褐色を基調とした翅を持ち、樹皮や枯れ葉の上に静止している際には、周囲の環境に溶け込みやすい保護色として機能しています。この控えめな体色は、天敵から身を守る上で重要な役割を果たしていると考えられます。成虫の大きさには雌雄で明確な違いが見られます。翅を広げた際の幅、すなわち開張は、オスではおおよそ60ミリメートルから75ミリメートルの範囲に収まるのに対し、メスはそれよりも顕著に大きく、80ミリメートルから90ミリメートルにも達します。メスの方が大型であるというのは、ガ類においては比較的よく見られる特徴です。成虫としての期間は、主に繁殖活動に費やされます。

ツガカレハの生活史において、特に注目すべきはその幼虫です。幼虫は典型的な毛虫の姿をしており、全身が灰褐色の毛に覆われています。この体色もまた、生息環境である樹木の幹や枝の上で目立ちにくい保護色となっています。幼虫の最も際立った特徴は、頭部の比較的近い位置に存在する、二つの目立つ毒針毛の束です。これらの毛束は通常時でも確認できますが、幼虫が外部からの刺激や脅威を感じた際には、その身を守るための防御行動として、これらの毒針毛の束を瞬時に膨らませます。この毒針毛に触れると、個人差はありますが、皮膚のかゆみやかぶれといった炎症反応を引き起こす可能性があります。

この毒針毛は、ツガカレハの特定の生活段階にのみ存在します。幼虫が成長の最終段階を迎え、蛹になるために周囲の物、例えば枝や葉に自身を固定して作る繭にも、この毒針毛は巧妙に織り込まれています。これは、蛹という動けない、無防備な状態にある間も、鳥などの捕食者から物理的および化学的な防御を得るための適応と考えられます。しかし、幼虫が蛹を経て成虫へと変態を遂げると、その体からは毒針毛は失われます。つまり、毒針毛を持つのは、幼虫期と繭の時期だけに限られるのです。

ツガカレハの幼虫は、その食性において非常に特化しています。彼らが成長するために食べるのは、主に特定の種類の針葉樹の葉です。最も代表的な食草は、その和名の由来ともなっているツガ（栂）ですが、その他にもモミ（樅）、アカマツ（赤松）、クロマツ（黒松）など、日本各地の山地や海岸線に生育する主要な針葉樹を食料とします。これらの樹木は、ツガカレハの幼虫が生きていく上で不可欠な存在であり、彼らの分布や個体数は、これらの食草となる樹木の生育状況と密接に関係しています。幼虫はこれらの樹木の葉を大量に消費することで急速に成長し、次の世代を生み出すためのエネルギーを蓄えます。

まとめると、ツガカレハ（学名：Dendrolimus superans）は、日本全国に分布するカレハガ科のガであり、淡い褐色の成虫と、灰褐色の体色と頭部近くの毒針毛の束が特徴的な幼虫を持ちます。幼虫期と繭に存在する毒針毛は、捕食者からの防御に役立ちます。主な食草はツガやモミ、マツ類といった針葉樹であり、日本の森林生態系において、特定の樹木と共存する昆虫として重要な位置を占めています。

もう一度検索