モミ

モミ：日本の温暖な気候を代表する常緑針葉樹

モミ（学名: Abies firma）は、マツ科モミ属に属する常緑針葉樹で、日本にのみ自生する固有種です。本州の秋田県以西から四国、九州、そして屋久島まで広く分布しており、モミ属の中では最も温暖な地域に生育する種として知られています。太平洋側に多く分布し、日本海側では局所的な分布にとどまります。日本海側の多雪地帯では、モミに代わってスギ、特にウラスギと呼ばれる系統が優勢になり、ブナと共に厳しい環境に適応しています。

樹木の形態

モミは高さ30メートル以上、幹の直径が1.5メートルを超える高木に成長します。樹形は整った円錐形で、枝は水平に輪生状に広がります。樹皮は灰褐色から淡灰色で、縦に細かく裂け目が入り、若い木では皮目が目立ちます。若枝には黒い軟毛が生えています。モミ属の樹木は一般的に樹皮が白っぽい灰色ですが、モミの樹皮は茶色みを帯びているのが特徴です。

葉はらせん状に互生し、細くて硬い針状です。若い葉の先端は2つに裂けて鋭く尖っていますが、老木では丸みを帯びます。モミの葉は、日本に自生するモミ属の樹木の中では最も大きく硬いとされています。

モミは雌雄同株で、5月が開花期です。2～3年に一度開花結実し、10月には10～15センチ[[メートル]]ほどの球果が成熟します。球果は最初は緑色ですが、成熟すると灰褐色になり、鱗片が脱落するため、松かさのように落下することはありません。冬芽は赤褐色の芽鱗に包まれています。

モミの生態

モミは、他のマツ科針葉樹と同様に、菌類と共生して菌根を形成します。この共生関係は、モミが菌類から栄養分を得たり病原菌から身を守ったりするのに役立ち、菌類はモミから光合成産物を受け取るという、相利共生の関係です。菌根から伸びる菌糸は、土壌中で広大なネットワークを形成し、他のモミや異なる種類の植物と繋がっていると考えられています。

モミは典型的な陰樹で、既存の林冠にできたギャップで稚樹が成長し更新していきます。他の樹木のように、土壌中に大量の種子を蓄えて火災などを待つ戦略ではなく、耐陰性の高い実生を母樹の周りに多く残し、ギャップの形成を待ちます。この高い耐陰性のおかげで、小さなギャップでも更新でき、大規模な撹乱がない環境では、イヌブナなどの樹木よりも優勢になります。

モミは、急斜面でも生育しやすく、ヒノキやツガとの混交林では、傾斜40度以上の急斜面によく見られます。これは、土砂の移動に対する耐性と、大きな種子による発芽直後の良好な生育によるものと考えられています。また、モミは深根性で、幼木のうちから硬い土壌でも深く根を張ります。

モミは、ツクバネやマツグミといった寄生植物の寄生を受けることがあります。これらの寄生植物はモミの成長をある程度阻害する可能性がありますが、その影響についてはまだよくわかっていません。

中間温帯とモミ

モミは、暖温帯と冷温帯の中間にある中間温帯に多く分布します。中間温帯は、暖かさの指数は暖温帯に属するものの、気温の年較差が大きく、常緑広葉樹林が成立しない地域です。モミやツガなどの樹木は、このような中間温帯の環境に適応し、モミ・ツガ林や暖温帯落葉広葉樹林を形成します。

人間との関わり

モミは、かつては東京や大阪近郊でも普通に見られる樹木でしたが、大気汚染に弱いため、都市化や開発によってその数は減少しました。渋谷区の地名「代々木」は、明治神宮に生えていたモミの巨木に由来すると言われています。モミの花言[[葉]]は「時間」「とき」です。

神社では、モミの大木が神聖な樹木として扱われることが多く、スギ、イチイ、クスノキ、イチョウなどと並んでご神木となる場合もあります。長野県の御柱祭に使われる巨大な柱も「樅の柱」と呼ばれますが、実際にはウラジロモミが使われています。

モミの利用

モミの木材は白くて柔らかく加工が容易なため、建築材（天井板、腰板など）、高級な棺、卒塔婆などに利用されます。蒲鉾の板にも伝統的にモミ材が使われます。また、パルプの原料にもなります。クリスマスツリーとしても利用されますが、日本ではトウヒ類、特にアカエゾマツが好まれています。ヨーロッパでは、近縁種のヨーロッパモミがクリスマスツリーとして使われます。

モミを直接食べることはありませんが、モミと共生するキノコを食べることで間接的にモミを利用することになります。モミ林は、様々な菌根性キノコの生育地となります。モミの多い地域では、アカモミタケなどのキノコが有名です。

著名なモミ

群馬県にある伊賀野のモミは、幹周6.8メートル、樹高36メートルにも及ぶ巨木で、群馬県指定天然記念物に指定されています。

クリスマスツリーとしてのモミ

日本では庭にモミを植えないという風習がありますが、西洋ではクリスマスツリーとして親しまれています。常緑樹であるモミは、西洋では「永遠の命」の象徴とされ、キリスト教の教えとも結びついて、クリスマスの飾りとして広く普及しました。

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