ツツジグンバイ

ツツジグンバイ (Stephanitis pyrioides)は、カメムシ目カメムシ亜目グンバイムシ科に分類される、非常に小さな昆虫です。この仲間は、体のサイズに比べて翅が大きく広がり、日本の相撲の行司が持つ軍配に似た独特の形状をしていることから「グンバイムシ」と呼ばれます。本種はグンバイムシの中でも特によく見られる種の一つです。

グンバイムシの多くの種と同様、ツツジグンバイの翅も薄く透き通ったレースのような美しい模様をしています。本種の翅はほぼ透明で、網の目のように張り巡らされた翅脈が繊細なパターンを描き出しますが、体があまりに小さいため、その美しさを肉眼で詳細に捉えるのは困難です。

名前が示す通り、ツツジの仲間を主な食草とし、特に人が栽培している園芸品種によく発生します。英名もAzalea lace bug（アザレアのレースバグ）と、ツツジとその特徴的な翅に由来しています。

形態

体長は約3.5ミリメートルから4ミリメートルほどで、グンバイムシとしては中程度の大きさです。全身は淡い黄色を基調とし、黒褐色の斑紋が不規則に散らばっています。翅は透明です。

触角は細長く、先端がわずかに太くなっています。前胸の主要部分は楕円形に近いですが、その縁は薄い膜状に張り出し、後方に向かって広がるため、全体として三角形に見えます。この張り出しは水平に出るのではなく、後方になるほど背中側に反り返るような形になっています。

また、背面の真ん中あたりには、帽子のように丸く盛り上がった「帽状部」があります。この帽状部の先端は尖っており、前胸の前端を超えて前に伸び、頭部をほとんど覆い隠します。帽状部の上面には、中央に縦の筋（縦条）とその両側に網目模様が見られます。

翅をたたんだ状態では、前胸の後ろ側はおおよそ楕円形に見え、本体部分はほとんど隠れてしまいます。前翅には、前端近くの後方へ向かう太い横帯と、後方にある別の太い横帯があり、これらが中央で縦につながることで、背面全体に大きなX字状の黒褐色斑紋を形成します。この斑紋は、黒褐色の翅脈と、その間の薄く黒ずんだ膜によって構成されています。X字部分以外の翅脈は黄色みを帯び、膜は透明です。脚は細く、目立つ色はありません。

生態と生活史

ツツジグンバイの成虫は、ツツジ類の葉の裏側に張り付いて生活し、葉の細胞の内容物を吸汁します。寄生された葉は、吸われた部分が白く抜けて、表側にも白いまだら模様が現れます。このような葉を見つけ、裏側を確認すれば、本種を容易に発見できます。幼虫も成虫と同様に葉裏で吸汁して育ちます。

卵は、成虫が生活するツツジの葉の裏側の組織内に、一つずつ埋め込むようにして産み付けられます。

幼虫は成虫とは異なり、前胸の側面の張り出しや大きく広がった前翅を持たず、むしろ一般的なカメムシに近い、細長い姿をしています。体は緑色っぽいことが多いですが、中胸から腹部にかけての中央部分は黒ずんでいます。また、腹部の側面からは、多数の黒い棘のような突起が突き出ており、これも特徴的です。幼虫は通常、小さな集団で固まって生活します。

幼虫は約1ヶ月足らずで成虫になり、暖かければ年間を通じて複数世代を繰り返して繁殖します。冬は主に卵の状態で越冬しますが、稀に成虫が冬を越すこともあります。ただし、越冬した成虫がその後の繁殖に積極的に関わることは少ないようです。卵は通常4月中旬頃から孵化し始め、最初の新成虫は5月下旬頃から現れます。

生息環境と分布

ツツジグンバイはツツジ類の生育する場所に生息します。特に園芸品種によくつくため、庭園や公園など、人里周辺で頻繁に見られます。手入れの行き届いた庭だけでなく、車道脇や植え込みなど、炎天下で乾燥しやすい場所でもよく観察されます。ごくまれに、ツツジ以外の植物、例えばカキの木で見つかることもあります。

日本国内では、本州から沖縄にかけて広く分布しており、北海道での分布も報告されていますが、定かではありません。国外では、ロシア極東部、朝鮮半島、中国南部、台湾などに自然分布しています。さらに、オーストラリア、ヨーロッパ、北米、アルゼンチンなど、世界各地でも見られますが、これらは人為的な移動（輸出入など）により、直接的または間接的に日本から持ち込まれ帰化したものと考えられています。

利害

ツツジグンバイは、ツツジを栽培する上で最も注意すべき代表的な害虫の一つです。特に、オオムラサキやヒラドツツジ、サツキといったよく栽培される園芸品種がしばしば大きな被害を受けます。

本種の寄生が進んだツツジの葉は、吸汁された箇所が白くまだらになり、被害がひどくなると葉全体が白っぽくかすれたような状態になります。さらに、葉の裏側には黒いタール状の糞や脱皮した後の殻が多数付着し、葉の見た目を著しく損ないます。重度の被害では葉が枯れ落ちてしまうこともあります。繁殖力が強く、一つの株の多くの葉に大発生することも珍しくありません。薬剤による駆除は可能ですが、一度変色したり汚れたりした葉の美しさは残念ながら元に戻りません。

分類

グンバイムシ科のStephanitis属には、日本国内だけで約27種が知られています。これらの種は互いによく似ており、体も小さいため、虫単体を見て正確に種類を判別するのは専門家でも難しい場合があります。しかし、実際にツツジの葉で見つかるグンバイムシのほとんどはこのツツジグンバイであるため、寄主植物から判断できることが多いです。

ただし、同属のトサカグンバイ(S. takeyai)は、シャクナゲ科を含む様々な植物につくことがあり、アセビやネジキ、シャクナゲ類でよく見られます。トサカグンバイはツツジグンバイよりも黒みが強いことや、前胸部背面に長い毛が生えていることなどで区別されます。また、同じ属には、ナシの害虫として知られるナシグンバイ(S. nashi)などもいます。

本記事の作成にあたっては、以下の文献を参考にしています。

- 友国雅章監修, 『日本原色カメムシ図鑑』, 全国農村教育協会 (1993)
- 安松京三, 朝比奈正二郎, 石原保, 『原色昆虫大圖鑑〔第3巻〕』, 北隆館 (1965)
- 米山伸吾, 木村裕, 『庭木の病気と害虫－見分け方と防ぎ方－』, 農山漁村文化協会 (2001)
- 池田二三高, 「オルトラン水和剤によるツツジグンバイとツツジコナジラミの防除」, トーメン農薬ガイドNo.98/A (2001)

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