ツマムラサキマダラ

ツマムラサキマダラ

ツマムラサキマダラ（学名：Euploea mulciber）は、チョウ目タテハチョウ科マダラチョウ亜科に分類される美麗なチョウです。その和名は、オスの前翅の先端部（いわゆる翅の「褄」）が、光の当たり方によって鮮やかな紫色に輝くことに由来しており、本種の最も特徴的な性質を表しています。

特徴的な姿かたち

ツマムラサキマダラは、オスとメスで翅の模様が大きく異なる性的二型が顕著に見られます。

オス: オスの前翅は、全体的に黒褐色や暗褐色を基調としていますが、前翅の先端部から外縁にかけて、光の角度によって神秘的な紫色や青紫色に輝く領域を持っています。この構造色は、見る方向や光の強さによってその色合いや輝きが変化し、大変美しい光沢を放ちます。一方、後翅は比較的単純な黒褐色の地色をしています。また、オスの腹部先端には、マダラチョウのオスに一般的に見られる「ヘアペンシル」と呼ばれる筆状の器官が収納されています。これは交尾相手を誘引するための性フェロモンを分泌・散布する役割を担っており、繁殖行動において重要な機能を持つと考えられています。
メス: メスはオスのような紫色の輝きは持ちません。地色はオスと同様に黒褐色系ですが、特に後翅において顕著な違いが見られます。メスの後翅には、放射状あるいは筋状に並ぶ多数の白色または淡い灰色の斑紋が発達しています。これらの白条は個体差がありますが、メスをオスから容易に見分けることができる明確な特徴となっています。

生息域と日本への広がり

ツマムラサキマダラの自然分布域は、インド、スリランカからミャンマー、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ニューギニア、そして中国南部や台湾にかけての、東南アジアを中心とした広大な地域に自然分布しています。この広い分布域の中で、地域によって形態や生態に差異が生じており、現在までに多くの亜種が記載されています。

かつて、日本の南方に位置する台湾が、ツマムラサキマダラの地理的な分布の北限とされていました。そのため、日本国内では本種の確実な生息地は確認されておらず、1970年代頃までは、台風などの強風によって偶発的に海を越えて飛来した記録がごく少数見られるだけで、いわゆる「迷チョウ（偶産記録のみの種）」として捉えられていました。

しかし、1980年代に入ると、日本の南西諸島において状況が変化し始めます。台湾から飛来したと見られる本種の亜種が、沖縄県の八重山諸島（石垣島、西表島など）で繁殖を開始し、次第に個体数を増やして安定的に生息する「定着」に至ったのです。この八重山での定着以降、ツマムラサキマダラは日本の南西諸島を伝うようにして生息域を北へと拡大させていきました。そして、2000年頃には、沖縄本島よりもさらに北に位置する鹿児島県の奄美大島でも本種の幼虫や成虫が確認されるようになり、定着が確認されました。現在では、沖縄本島を含む沖縄諸島や奄美群島の一部地域で比較的普通にその姿を目にすることができるチョウとなっています。その分布範囲は今後も変動する可能性があり、日本のチョウ相の変化を示す事例として、注意深く観察が続けられています。

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