ツール・ド・フランス1989

ツール・ド・フランス1989： 史上最小のタイム差で決着した激闘

1989年のツール・ド・フランスは、第76回目の開催。7月1日から23日まで、全21ステージで繰り広げられました。この大会は、最終ステージでの劇的な逆転劇によって、ツール・ド・フランスの歴史に深く刻まれることとなりました。

コース概要

ルクセンブルクをグランデパールとし、プロローグの翌日には、通常のレースに加えてチームタイムトライアルが行われるという異例のダブルステージで幕を開けました。その後、ベルギーを経て西フランスへ移動、南下してピレネー山脈、さらに南海岸沿いにアルプス山脈へと向かうコース設定。アルプスでは、山岳タイムトライアルを含む5連戦が選手たちを待ち受けました。そして、最終ステージはシャンゼリゼでの個人タイムトライアルという、最後まで気の抜けない構成となっていました。

注目選手

過去3年間、優勝候補に挙げられながらも期待に応えられず、「ガラスのエース」と揶揄されていたローラン・フィニョン。しかし、この年のジロ・デ・イタリアで総合優勝を果たし、好調を維持していたことから、本命視されていました。

対抗馬は、前年の総合優勝者ペドロ・デルガド。さらに、スティーブン・ルークスを擁する強力なPDMチームも注目を集めました。

そして、3年ぶりにツールに復帰したグレッグ・レモン。しかし、前年にPDMから放出された彼の評価は低く、かつての優勝者としての意地を見せる程度だろうと見られていました。

大会概要

波乱の幕開けとなった今大会。プロローグの個人タイムトライアルで、前年覇者のペドロ・デルガドが2分40秒も遅刻するという前代未聞の失態を演じてしまいます。結果的に、この2分40秒がデルガドにとって致命的なタイム差となりました。

一方、下馬評の低かったレモンは、第5ステージの個人タイムトライアルで勝利し、評価を一変させます。1986年以来となるマイヨ・ジョーヌを奪取し、5秒差でフィニョンが追走。ここから、最終ステージまでもつれ込む激闘が始まりました。

ピレネー越えの第10ステージでフィニョンがマイヨを奪い返しますが、レモンとの差はわずか7秒。アルプスステージに入り、第15ステージの個人タイムトライアルでレモンが再びマイヨを獲得、フィニョンに40秒差をつけました。

しかし、ブリアンソンからラルプ・デュエズへの第17ステージで、フィニョンが再びマイヨを奪還。さらに、続く第18ステージも制し、レモンに50秒の差をつけました。

50秒差で迎えた最終ステージは、シャンゼリゼでの個人タイムトライアル。通常であれば、総合優勝者を称える凱旋パレードとなるはずの最終ステージでしたが、この年は異様な緊張感に包まれ、そして最後の最後で大逆転劇が起こりました。

レモンは序盤からハイペースで飛ばし、一方のフィニョンは苦しそうな表情。地元フランスのテレビ局のアナウンサーも、「ひょっとするとフィニョンは負けるかもしれない」と落ち着かない様子で実況していました。

レモンは平均時速54.545km（プロローグ以外の個人タイムトライアルとしては史上最速記録）という驚異的なスピードで26分57秒を記録。対するフィニョンは、27分46秒でゴールすれば優勝でしたが、結果は27分55秒。わずか8秒差でレモンがフィニョンを逆転し、奇跡的な2度目の総合優勝を飾りました。この総合1位、2位のタイム差8秒は、ツール・ド・フランス史上最小のタイム差として、今もなお記録されています。

その後

フィニョンの敗北を受け、最終ステージに個人タイムトライアルを設けたことに対する批判が高まり、翌年以降、最終ステージは優勝者の凱旋ステージとしての様相を取り戻しました。

ショーン・ケリーが史上最多となる4度目のポイント賞を獲得。その後、エリック・ツァベルが2000年に5度目の同賞を獲得するまで、最多獲得者となりました。

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