マイヨ・ジョーヌ

ツール・ド・フランスの象徴：マイヨ・ジョーヌ

ツール・ド・フランスにおいて、個人総合成績で首位を走る選手に与えられる栄光のジャージ、マイヨ・ジョーヌ（Maillot Jaune）。鮮やかな黄色は、観戦者にとって誰がトップなのかを容易に識別できるよう、1919年の第1回大会から採用されました。

その色の由来は、レース主催者であるスポーツ新聞『ロト』（L'Auto）―現在の『レキップ』（L'Equipe）―の紙面の色であるという説が広く知られています。一方で、主催者が派手な色のジャージを希望した結果、仕立屋の手持ちが黄色い布しかなかったという説も存在します。いずれにせよ、マイヨ・ジョーヌの鮮やかな黄色は、瞬く間に大会の象徴となり、多くの選手にとって憧れの的となりました。

1919年、最初のマイヨ・ジョーヌを着用したのはウジェーヌ・クリストフでした。しかし、彼はその後機械故障に見舞われ、総合優勝を逃すという結果に終わりました。このエピソードは、マイヨ・ジョーヌの獲得が、決して容易ではないことを示しています。

マイヨ・ジョーヌのサプライヤーは、時代とともに変化を遂げてきました。1950年代以降はルコックスポルティフが長く務め、1990年代にはナイキも担当しました。2012年からは再びルコックスポルティフがサプライヤーを務めています。ジャージの両肩には、ツールの創設者であるアンリ・デグランジュのイニシャル「HD」が大きく記されています。これは、大会の伝統と歴史を象徴する重要なディテールと言えるでしょう。

スポンサーについても、アイスクリーム会社やココア飲料会社などが務めた時代がありました。1987年からは、フランスの銀行クレディ・リヨネ（現在はクレディ・アグリコル傘下）がスポンサーとなり、そのロゴがジャージの目立つ位置に大きく記されています。現在では「LCL」と略記されていますが、長い間、この銀行のロゴがマイヨ・ジョーヌを彩ってきました。

しかし、マイヨ・ジョーヌの歴史は、華やかな勝利だけでなく、ドラマチックな出来事にも彩られています。

例えば、1924年にはアンリ・ペリシエが、アンリ・デグランジュへの反発からマイヨ・ジョーヌを脱ぎ捨て、自身のチームジャージを着用するという事件がありました。1950年にはフェルディナント・キュプラーが、観客の暴動を警戒してスイスナショナルカラーのジャージを着用したこともありました。

また、選手の負傷や棄権をきっかけに、総合首位に立ってもマイヨ・ジョーヌの着用を拒否するケースもありました。1971年のエディ・メルクス、1980年のヨープ・ズートメルク、1991年のグレッグ・レモンなどが、負傷した選手への敬意からマイヨ・ジョーヌの着用を辞退しています。これらのエピソードは、マイヨ・ジョーヌが単なる栄光の象徴ではなく、選手同士の敬意や連帯感といった人間のドラマが凝縮された存在でもあることを示しています。

2007年には、ミカエル・ラスムッセンがドーピング疑惑によりチームから解雇され、棄権を余儀なくされました。その結果、アルベルト・コンタドールがマイヨ・ジョーヌの着用資格を得ましたが、彼は新人賞のマイヨ・ブランを着用しました。2015年には、クリス・フルームが、クラッシュで負傷したトニー・マルティンへの敬意から、マイヨ・ジョーヌの着用を辞退しています。

このように、マイヨ・ジョーヌの歴史は、勝利と栄光だけでなく、選手たちのドラマ、そしてスポーツマンシップの歴史でもあります。その鮮やかな黄色は、ツール・ド・フランスの歴史と伝統を体現し、これからも多くの選手たちを魅了し続けることでしょう。

もう一度検索