ティグラネス2世

ティグラネス2世：栄光と挫折のアルメニア王

ティグラネス2世（在位：紀元前95年頃 - 紀元前55年）は、アルタクシアス朝アルメニアの王であり、その治世において、アルメニアを強大な帝国へと押し上げました。彼はその勢力拡大政策によって「大王」や「諸王の王」といった称号を名乗りましたが、晩年にはローマとの戦いに敗れ、その領土の多くを失うこととなりました。

生涯

ティグラネス2世は、前王アルタウァスデス1世の息子として生まれました。アルタウァスデス1世がパルティアの攻撃を受け降伏した際、ティグラネス2世は人質としてパルティアに送られました。その後、パルティア王ミトラダテス2世によってアルメニア王に擁立され、紀元前95年頃に即位しました。

領土拡大

即位後、ティグラネス2世はパルティアとの関係を維持しつつ、その影響力の低下に乗じて積極的に領土拡大政策を展開しました。まず、メディア地方に侵攻し、その中心地エクバタナを占領しました。さらに、弱体化していたセレウコス朝を攻撃し、シリアの大半をアルメニアの支配下に置きました。彼はチグリス川の北に新たな首都ティグラノケルタを建設し、「諸王の王」の称号を刻んだコインを発行しました。

ローマとの戦い

ティグラネス2世の拡大政策は、西方で発生したミトリダテス戦争との関係から頓挫します。同盟者であったポントス王ミトリダテス6世がローマとの戦いに敗れ、アルメニアへ逃亡してきたからです。ローマの将軍ルキウス・リキニウス・ルクルスはミトリダテス6世の引渡しを要求しましたが、ティグラネス2世はこれを拒否し、ローマとの対立姿勢を鮮明にしました。

しかし、ティグラネス2世はローマとの戦いで勝利を収めることはできませんでした。紀元前69年には首都ティグラノケルタが包囲され、放棄せざるを得なくなりました。紀元前68年のアルタクサタの戦いでも敗北を喫し、パルティアに援軍を求めましたが、パルティアは日和見的な態度を取りました。

ルクルスの撤退後、ティグラネス2世の息子である小ティグラネスが反乱を起こし、パルティアやローマの支援を受けました。ポンペイウスは小ティグラネスを助け、アルメニア領土を分割するように迫り、ティグラネス2世はこれを受け入れざるを得ませんでした。

その後

この一連の戦いによって、ティグラネス2世はアルメニア本国以外の全ての征服地を失い、紀元前55年に死去しました。彼の死後、息子のアルタウァスデス2世が王位を継承しました。

トリビア

ティグラネス2世は、「使者の首を打つ」という諺の語源としても知られています。ローマとの戦いにおいて、敵将ルクルスが到着したという悪い知らせをもたらした使者の首をはねたという逸話に由来します。この故事は、真実を伝える者がいなくなることのたとえとして、シェイクスピアの作品にもしばしば言及されています。

ティグラネス2世の生涯は、栄光と挫折が交錯するものでした。彼はアルメニアを強大な帝国へと押し上げましたが、最終的にはローマとの戦いに敗れ、その領土を失いました。しかし、彼の名は今もなお、アルメニアの歴史における最も重要な人物の一人として記憶されています。

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