ミトリダテス6世

ミトリダテス6世エウパトル：ポントス王国の英雄、その生涯とローマとの戦い

ミトリダテス6世エウパトル（紀元前132年 - 紀元前63年）は、小アジアのポントス王国の王として、その名を歴史に刻みました。彼は共和政ローマの東方における覇権に挑戦し、3次にわたる激しい戦いを繰り広げました。その生涯は、王位継承の争い、領土拡大の野望、そしてローマとの激しい戦いに彩られています。

生涯

幼少期からポントス王即位まで

紀元前132年、ミトリダテス6世はポントス王国の王都シノーペで、国王ミトリダテス5世エウエルゲテスとラオディケ6世の長子として誕生しました。母ラオディケは、セレウコス朝の血を引く教養豊かな女性であり、幼いミトリダテスに学術、言語、武術の才能を育みました。父王の死後、王位を継承しますが、母との権力争いに巻き込まれ、一時的に王宮から逃亡する苦難も経験しました。クーデターによって母を退け、王位を奪還した彼は、王位を確固たるものとするために、妹であり妻でもあるラオディケ以外の兄弟を殺害しました。

周辺勢力との争い

王位についたミトリダテス6世は、黒海沿岸地域とアナトリア地方への領土拡大を目指しました。紀元前101年までにコルキス王国（現在のグルジア）を征服し、クリミアのタウリカ、ボスポロス王国を傘下に収めました。さらに、ポンティック・ステップでの勢力争いを経て、スキタイやサルマタイをも服属させ、黒海周辺を制覇しました。

勢力を拡大したミトリダテスは、ローマの影響力が強まりつつあるアナトリア地方へと進出します。ビテュニア王ニコメデス3世と共謀し、パフラゴニアとガラティアを分割支配しようと企てましたが、ビテュニアがローマと同盟を結び、ミトリダテスに対抗する姿勢を鮮明にしたため、ローマとの対立は避けられないものとなりました。カッパドキアの支配権を巡る戦いでも、ローマはビテュニアを支援し、両者の緊張は高まりました。

紀元前94年にニコメデス3世が亡くなり、傀儡であるニコメデス4世が後を継ぐと、ミトリダテスはこれを打倒しようと企て、ニコメデス4世は宣戦布告。ミトリダテスは軍を率いてビテュニアへ侵攻し、ニコメデス4世を追放しました。

ミトリダテスは、自らをヘレニズム世界の王者と位置づけ、ギリシアと東方世界の融合を目指しました。ギリシア人にとっては、ローマからギリシアを守るという彼の宣言は、一定の支持を得ました。また、アルタクシアス朝（アルメニア王国）のティグラネス2世と娘クレオパトラを結婚させ、アルメニアと同盟関係を築きました。

ローマとの戦争

紀元前88年、ミトリダテス6世はアナトリアに住むローマ人を虐殺し、カッパドキア王を追放。これに対し、ローマはルキウス・コルネリウス・スッラを派遣します。しかし、スッラがローマを離れた隙に、ガイウス・マリウスがローマを制圧。その後、キンナがミトリダテス討伐の軍を派遣しますが、スッラ軍との戦いに敗れ、第一次ミトリダテス戦争は終結しました。

紀元前83年、ローマ軍が講和条約を破り、カッパドキアとポントスに侵攻すると、ミトリダテスはローマ軍を撃破。その後の講和で、わずかながら領土を得ました（第二次ミトリダテス戦争）。

紀元前74年、ローマがビテュニアを併合したことに異議を唱え、アルメニアやボスポロスと同盟を結び、ビテュニアを攻撃。ローマとの戦いが再開されました。ルキウス・リキニウス・ルクッルス、グナエウス・ポンペイウスといったローマの名将を相手に、一時は優勢に戦いを進めますが、最終的には敗北を喫しました（第三次ミトリダテス戦争）。

最期

第三次ミトリダテス戦争での敗北後、ミトリダテス6世はボスポロスへ逃れ、再起を図りますが、息子のファルナケス2世に反乱を起こされ、パンティカパイオンへ退き、自害しました。彼の死は、ローマにとって大きな勝利となり、兵士たちは祝杯を挙げました。遺体はポンペイウスに送られ、後にシノーペに埋葬されました。

エピソード

毒殺を恐れていたミトリダテス6世は、日頃から毒薬を服用し、毒への耐性を身につけていたため、自害する際にもなかなか死ぬことができませんでした。最終的には、忠実な部下に命じて自らを殺させたといわれています。彼が服用していた毒薬は、ヒヨドリバナ属の一種から抽出されたとされ、ヒヨドリバナ属の植物には、彼の称号である「Eupatorium」（良き父）の名が冠せられています。

また、ミトリダテス6世は、世界初の解毒剤とされる「ミトリダティウム」の製造に関わりました。囚人を実験台にしてその効果を試したとされ、この解毒剤は、後にローマで改良され、「テリアカ」として発展しました。

大プリニウスによれば、ミトリダテス6世は支配下の国で使用されていた22の言語を自由に操ることができ、記憶力にも優れていたとされています。

モーツァルトは、ミトリダテス6世の生涯を題材とした歌劇「ポントの王ミトリダーテ」を作曲しました。

ミトリダート法という、毒への耐性を得る方法も、ミトリダテス6世に由来します。

ミトリダテス6世は、その波乱万丈な生涯と、ローマとの戦いにおける英雄的な活躍によって、歴史に名を残す人物となりました。

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