ティベリウス・クラウディウス・ナルキッスス

ティベリウス・クラウディウス・ナルキッスス

ティベリウス・クラウディウス・ナルキッスス（生年不詳 - 54年）は、ローマ皇帝クラウディウス帝に仕えた解放奴隷であり、皇帝の側近として権勢を振るいました。

生涯

ナルキッススは、元々クラウディウス帝の奴隷でした。主人に対して忠実であり、その能力を高く評価されていました。しかし、私財を蓄えるといった一面もあったようです。また、皇妃メッサリナと結託し、政敵を陥れることもあったと伝えられています。もっとも、この件に関しては確たる証拠はなく、あくまで噂の域を出ません。

ナルキッススは解放奴隷となった後も、クラウディウス帝への忠誠を貫き、他の者よりも重要な任務を任されていました。皇帝の信頼は厚く、ナルキッススの進言は政治に大きな影響力を持っていました。

メッサリナ殺害

皇妃メッサリナがガイウス・シリウスとの重婚という不祥事を起こした際、ナルキッススは独断で彼女の処刑を決定しました。さらに、クラウディウス帝に新たな妃としてアエリア・パエティナを推薦します。一説には、メッサリナ殺害後のブリタンニクスの報復を恐れたナルキッススが、ブリタンニクスを帝位継承者から外すために、クラウディウス帝の娘と結婚していたファウストゥス・コルネリウス・スッラ・フェリックスを後継者にしようと画策したとも言われています。

しかし、クラウディウス帝は小アグリッピナを新たな妻に選びました。これにより、ナルキッススは自らの立場を守るため、ブリタンニクスの支持者へ接近するようになります。

このような経緯があったにも関わらず、クラウディウス帝はナルキッススを信頼し続け、プラエトル（法務官）の地位にまで昇進させました。しかし、皇妃アグリッピナとの関係は良好とは言えませんでした。ナルキッススが水路建設の責任者を務めていた際、アグリッピナは彼を資金横領の罪で告発します。これは、ブリタンニクスを支持するナルキッススへの牽制であったと考えられています。

小アグリッピナとの対立、そして死

タキトゥスによれば、アグリッピナは同僚の解放奴隷であるパッラスと不倫関係にあり、ナルキッススはアグリッピナとその息子ネロを失脚させる陰謀を企て、その事をブリタンニクスの前で公言したとされています。しかし、スエトニウスとカッシウス・ディオは、クラウディウス帝が妻の不倫をブリタンニクスから聞き、アグリッピナを処罰する意思を示したと記しています。

いずれにせよ、アグリッピナは先手を打ち、ナルキッススを病気療養を名目にカンパニアへ追放し、その後クラウディウス帝を毒殺しました。ナルキッススがローマへ戻るとすぐに投獄され、クラウディウス帝の死から2週間も経たないうちに処刑されました。投獄される前、ナルキッススはネロによって悪用されるのを防ぐため、クラウディウス帝の文書を全て焼却したと伝えられています。

ナルキッススの死は、解放奴隷の権力闘争の激しさと、ローマ帝国の政治の裏側を物語る出来事と言えるでしょう。

関連項目

クラウディウス
マルクス・アントニウス・パッラス

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