解放奴隷

解放奴隷とは

解放奴隷（かいほうどれい、英: Freedman, 羅: Libertus）とは、奴隷制社会において、奴隷身分から解放された人々のことを指します。歴史的には、特に古代ローマとアメリカ合衆国の解放奴隷がよく知られています。この文章では、解放奴隷の歴史的背景、社会における役割、解放に至る経緯、そして解放後の地位や生活について、詳しく解説します。

古代ローマにおける解放奴隷

古代ローマでは、当初、「解放奴隷」という言葉は、解放された奴隷自身ではなく、その子供の世代を指していました。しかし、帝政期になると、解放された奴隷自身を指すようになりました。解放奴隷には土地を所有する権利が与えられ、その子供の世代は立派なローマ市民として扱われました。

解放奴隷は、解放してくれた主人の個人名と氏族名を名乗り、自身の名前を家族名として使用しました。例えば、マルクス・トゥッリウス・キケロの速記者として知られる奴隷ティロは、解放後にマルクス・トゥッリウス・ティロと名乗りました。多くの解放奴隷は、解放後もかつての主人やその家族と関係を持ち続け、主人をパトロヌスとするクリエンテス（被保護者）となりました。

奴隷が解放奴隷となる方法はいくつかありました。主人の遺言によって解放されることもあれば、生前に主人から解放される場合、奴隷自身がお金を払って自由を買い取ることもありました。ただし、古代ローマでは奴隷を解放する際に奴隷解放税を納める必要がありました。にもかかわらず、奴隷所有者が積極的に奴隷を解放した背景には、以下の様な理由がありました。

善意: 奴隷を解放することは、古代ローマ人にとって善行とされ、特に主人の死後、遺言によって解放されるケースが多かった。
奴隷の労働意欲の向上: 知的労働に従事する奴隷の意欲を高めるために、一定期間の労働後に解放を約束することがありました。
クリエンテスを増やすため: 多くのクリエンテスを持つことはローマの貴族のステータスであり、政治的な票田にもなったため、奴隷解放は有効な手段でした。
忠実な部下や監督者として: 農園経営や商業などの事業を行う際、信頼できる部下として奴隷を解放し、特に多数の奴隷を所有する貴族にとっては、奴隷の監督者として解放奴隷が適任でした。
役人・官僚として: 貴族が就任する上級官僚の補助として、中下級の役人には解放奴隷が起用されました。クラウディウス帝は特に解放奴隷を重用し、官僚制の発展に貢献しました。
解放奴隷からの収益: 解放奴隷は元の主人の部下として働くことが多く、解放による経済的損失は小さく、財産を築いた解放奴隷が遺産を主人に贈ることもあったため、解放は主人の利益にもつながりました。

しかし、五賢帝の時代になると、騎士階級のクルスス・ホノルムが整備され、官僚を供給するルートが確立されたため、解放奴隷が統治の重要な任務を担うことは少なくなりました。

解放奴隷出身の著名人

マルクス・トゥッリウス・ティロ：キケロの速記者
マルクス・アントニウス・パッラス：クラウディウス帝の側近
エピクテトス：ストア派の哲学者

関連する文学作品

ペトロニウス『サテュリコン』：解放奴隷トリマルキオの館での豪奢な饗宴を描いている

アメリカ合衆国における解放奴隷

アメリカ合衆国における「解放奴隷」（freedman）は、南北戦争以前から南北戦争後に解放された黒人奴隷を指します。性差のない表現として「freedperson」という言葉も使われます。

奴隷解放宣言と合衆国憲法修正第13条によって、アメリカ南部にいた400万人の黒人奴隷は解放されました。解放宣言は、南部諸州の黒人奴隷が本質的に自由であるとしましたが、奴隷制度そのものを撤廃したわけではありませんでした。奴隷から自由人への移行を支援するため、リンカーン大統領は解放黒人局を創設しました。さらに、修正第14条は元奴隷に市民権を与え、修正第15条は選挙権を与えました。これらの修正第13条から第15条は「公民権修正条項」として知られています。

イスラム世界における解放奴隷

イスラーム教においては、奴隷を解放することが天国への道を開く善行とみなされ、積極的に行われました。解放された奴隷は社会的に自由人と同等の資格を得ることができましたが、社会の部外者として元所有者との間に主従関係が生じ、保護を必要としました。有力者の私兵や商人として活躍する者もいました。

特に有名なのがマムルークです。遊牧民の子弟を奴隷として買い取り、解放して忠実な兵士としました。中には有力者として出世する者も現れ、マムルークによる王朝が成立するまでに至りました。

日本における解放奴隷

日本でも、楽市という特別な環境下で奴隷解放が見られました。楽市令の特許条項には、逃亡奴隷や犯罪者が市場内に入った場合、市場住人となることで解放されると記されています。これは、楽市という限定的な環境でのみ認められた解放でした。

解放奴隷

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古代ローマにおける解放奴隷

アメリカ合衆国における解放奴隷

イスラム世界における解放奴隷

日本における解放奴隷

関連項目