プラエトル
プラエトル（ラテン語: Praetor）は、古代ローマにおいて重要な役割を担った政務官職の一つで、日本語では法務官と訳されます。共和政ローマにおいては、コンスルに次ぐ公職として位置づけられ、インペリウム（命令権）を保有し、主に司法を担当しました。この職は、ローマ社会の運営において非常に重要な役割を果たしました。
プラエトルの成立については複数の説が存在します。一説には、コンスルという呼称が用いられる以前、ローマ社会を統率する者の呼称として「プラエトル」が使われていたとされます。歴史家のティトゥス・リウィウスは、プラエトルが最初から裁判を担当するために設けられたと主張していますが、この説は現代の学者の間では支持されていません。
通説の一つとして、共和政初期には軍を指揮する最高政務官が3人のプラエトルで構成されていたと考えられています。そのうち2人がコンスルとなり、残りの1人がプラエトルとして職務を続けたとされ、この説に従えば、当初は軍事的な意味合いが強かったと考えられます。
紀元前367年、プレブス（平民）もコンスルに就任できるようになった代わりに、パトリキ（伝統的貴族）が就任する政務官として、ローマ市で裁判を担当するプラエトル・ウルバヌス（首都法務官）が新設されました。さらに、第一次ポエニ戦争の末期には、プラエトル・ペレグリヌス（外国人係法務官）が増員されました。古代の史料では、この増員は外国人による訴訟に対応するためとされていますが、通説ではインペリウムを持つ政務官を増やすためと解釈されています。実際に外国人の訴訟を裁いたのは紀元前2世紀以降とされています。
紀元前336年には、クィントゥス・プブリリウス・ピロが初めてプレブス出身のプラエトルとなりました。その後、紀元前228年にはプラエトルは4名に増員され（シチリア・サルディーニャ担当の増員）、紀元前197年には6名（遠近ヒスパニア担当の増員）と、ローマが属州を獲得するたびに増員されました。首都に置かれる2名以外のプラエトルは、インペリウム保有者として属州総督の任にあたりました。
ルキウス・コルネリウス・スッラがローマを掌握し、改革を実施した際、プラエトルは8人に増員され、その性質も大きく変化しました。改革後は、全員が首都に置かれ、司法を担当することになりました。これにより、プラエトルは属州統治よりも司法に専念する職務となりました。
プラエトルは、共和政ローマにおいて非常に重要な役割を担いました。主な役割は以下の通りです。
司法の担当: プラエトルは、ローマ市における裁判を主導し、法の執行を監督しました。特に首都法務官は、ローマ市民間の訴訟を裁き、外国人係法務官は外国人が関わる訴訟を担当しました。
属州統治: ローマが属州を拡大するにつれて、プラエトルは属州の総督としても機能するようになりました。彼らは属州においてインペリウムを行使し、行政、司法、軍事を統括しました。
法律の制定: プラエトルは、自身の職務に関連する法律を制定する権限を持っていました。彼らが発表する告示は「プラエトル告示」と呼ばれ、ローマ法に影響を与える重要な要素となりました。
プラエトルの職務は、ローマの法制度と行政に深い影響を与えました。特に、プラエトル告示は、その後のローマ法発展の基礎となり、現代の法制度にもその影響を見ることができます。プラエトルの制度は、共和政ローマの政治構造を理解する上で不可欠な要素であり、その変遷を追うことは、ローマの発展と変容を理解する上で非常に重要です。
プラエトルは、古代ローマの政治において、司法、属州統治、法律制定と多岐にわたる役割を担った重要な政務官でした。その起源は軍事的意味合いが強かったと考えられますが、共和政が進むにつれて司法を主な職務とするように変化しました。スッラの改革によって、その役割はさらに変化し、首都での司法担当が主なものとなりました。プラエトルの存在は、ローマの法制度と行政構造を理解する上で不可欠であり、その歴史はローマの変遷を反映しています。
参考文献
長谷川岳男・樋脇博敏『古代ローマを知る事典』東京堂出版〈東京堂出版〉、2004年10月。ISBN 4-490-10648-3。
原田俊彦「ローマ共和政初期における公職の裁判権力について -対物訴訟の場合- (1)」『早稻田法學』第89巻第4号、早稲田大学法学会、2014年、1-65頁。
Fred K. Drogula (2007). “Imperium, Potestas, and the Pomerium in the Roman Republic”. Historia: Zeitschrift für Alte Geschichte (Franz Steiner Verlag) 56 (4): 419-452. JSTOR 25598407。
* T. R. S. Broughton (1951). The Magistrates of the Roman Republic Vol.1. American Philological Association。
プラエトルの起源
プラエトルの成立については複数の説が存在します。一説には、コンスルという呼称が用いられる以前、ローマ社会を統率する者の呼称として「プラエトル」が使われていたとされます。歴史家のティトゥス・リウィウスは、プラエトルが最初から裁判を担当するために設けられたと主張していますが、この説は現代の学者の間では支持されていません。
通説の一つとして、共和政初期には軍を指揮する最高政務官が3人のプラエトルで構成されていたと考えられています。そのうち2人がコンスルとなり、残りの1人がプラエトルとして職務を続けたとされ、この説に従えば、当初は軍事的な意味合いが強かったと考えられます。
プラエトルの変遷
紀元前367年、プレブス（平民）もコンスルに就任できるようになった代わりに、パトリキ（伝統的貴族）が就任する政務官として、ローマ市で裁判を担当するプラエトル・ウルバヌス（首都法務官）が新設されました。さらに、第一次ポエニ戦争の末期には、プラエトル・ペレグリヌス（外国人係法務官）が増員されました。古代の史料では、この増員は外国人による訴訟に対応するためとされていますが、通説ではインペリウムを持つ政務官を増やすためと解釈されています。実際に外国人の訴訟を裁いたのは紀元前2世紀以降とされています。
紀元前336年には、クィントゥス・プブリリウス・ピロが初めてプレブス出身のプラエトルとなりました。その後、紀元前228年にはプラエトルは4名に増員され（シチリア・サルディーニャ担当の増員）、紀元前197年には6名（遠近ヒスパニア担当の増員）と、ローマが属州を獲得するたびに増員されました。首都に置かれる2名以外のプラエトルは、インペリウム保有者として属州総督の任にあたりました。
スッラの改革とプラエトル
ルキウス・コルネリウス・スッラがローマを掌握し、改革を実施した際、プラエトルは8人に増員され、その性質も大きく変化しました。改革後は、全員が首都に置かれ、司法を担当することになりました。これにより、プラエトルは属州統治よりも司法に専念する職務となりました。
プラエトルの役割
プラエトルは、共和政ローマにおいて非常に重要な役割を担いました。主な役割は以下の通りです。
司法の担当: プラエトルは、ローマ市における裁判を主導し、法の執行を監督しました。特に首都法務官は、ローマ市民間の訴訟を裁き、外国人係法務官は外国人が関わる訴訟を担当しました。
属州統治: ローマが属州を拡大するにつれて、プラエトルは属州の総督としても機能するようになりました。彼らは属州においてインペリウムを行使し、行政、司法、軍事を統括しました。
法律の制定: プラエトルは、自身の職務に関連する法律を制定する権限を持っていました。彼らが発表する告示は「プラエトル告示」と呼ばれ、ローマ法に影響を与える重要な要素となりました。
プラエトルの影響
プラエトルの職務は、ローマの法制度と行政に深い影響を与えました。特に、プラエトル告示は、その後のローマ法発展の基礎となり、現代の法制度にもその影響を見ることができます。プラエトルの制度は、共和政ローマの政治構造を理解する上で不可欠な要素であり、その変遷を追うことは、ローマの発展と変容を理解する上で非常に重要です。
まとめ
プラエトルは、古代ローマの政治において、司法、属州統治、法律制定と多岐にわたる役割を担った重要な政務官でした。その起源は軍事的意味合いが強かったと考えられますが、共和政が進むにつれて司法を主な職務とするように変化しました。スッラの改革によって、その役割はさらに変化し、首都での司法担当が主なものとなりました。プラエトルの存在は、ローマの法制度と行政構造を理解する上で不可欠であり、その歴史はローマの変遷を反映しています。
参考文献
長谷川岳男・樋脇博敏『古代ローマを知る事典』東京堂出版〈東京堂出版〉、2004年10月。ISBN 4-490-10648-3。
原田俊彦「ローマ共和政初期における公職の裁判権力について -対物訴訟の場合- (1)」『早稻田法學』第89巻第4号、早稲田大学法学会、2014年、1-65頁。
Fred K. Drogula (2007). “Imperium, Potestas, and the Pomerium in the Roman Republic”. Historia: Zeitschrift für Alte Geschichte (Franz Steiner Verlag) 56 (4): 419-452. JSTOR 25598407。
* T. R. S. Broughton (1951). The Magistrates of the Roman Republic Vol.1. American Philological Association。
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