ティルマン・リーメンシュナイダー:中世ドイツを代表する彫刻家
ティルマン・リーメンシュナイダー(Tilman Riemenschneider,
1460年頃 -
1531年7月7日)は、
中世末期のドイツを代表する
彫刻家の一人です。その作品は、ゴシック様式からルネサンス様式への移行期における独自の表現を示しており、宗教的なテーマを中心に、その卓越した技術と情感豊かな表現力で多くの人々を魅了してきました。
生涯
リーメンシュナイダーは、現在のドイツ、
テューリンゲン州北部にあたるハルツ山脈付近の町、ハイルバート・ハイリゲンシュタットで誕生しました。1483年に
ヴュルツブルクに移り住み、1485年には金細工師の未亡人と結婚しました。彼は生涯で4度の結婚をし、経済的な成功も収めました。1504年には
ヴュルツブルク市の参事会員に選出され、1520年から1521年には市長を務めるなど、政治的な活動にも積極的に関わりました。
しかし、1525年に発生した農民反乱では、農民側に味方したことが原因で捕縛され、拷問を受けるという悲劇に見舞われました。この事件により、彼は市民としての地位と財産を失い、晩年は不遇のうちに過ごしました。
1531年、
ヴュルツブルクにてその生涯を閉じました。
作品と特徴
リーメンシュナイダーは、
ヴュルツブルクに工房を構え、数多くの祭壇や墓碑を手がけました。彼の作品は、木彫によるものが多く、その緻密で繊細な表現は、見る者を圧倒します。特に、人物像においては、その表情や仕草に、深い人間的な感情が込められており、その作品から、
中世の人々の息遣いを感じることができます。
彼の代表作としては、以下の作品が挙げられます。
祭壇彫刻: 特に、クレクリンゲンの祭壇は、彼の最高傑作の一つとされ、その精巧な彫刻技術とドラマチックな構成は、訪れる人々を魅了し続けています。
墓碑彫刻: 繊細で優美な彫刻が施されており、その洗練されたデザインは、当時の彫刻技術の高さを物語っています。
後世への影響
リーメンシュナイダーの作品は、その後の
彫刻家たちに大きな影響を与え、ドイツのみならず、ヨーロッパの美術史においても重要な位置を占めています。彼の作品は、現在でも多くの美術館で鑑賞することができ、その芸術的な価値は、時代を超えて高く評価されています。
ドイツの文豪
トーマス・マンも、自身の演説の中でリーメンシュナイダーを称賛しており、彼の芸術的な功績は、文学の世界にも影響を与えています。また、1960年に発見された小惑星には「リーメンシュナイダー」の名前がつけられ、彼の名が現代においても語り継がれています。
研究文献
リーメンシュナイダーに関する研究は、国内外で数多く行われています。
植田重雄『リーメンシュナイダーの世界』恒文社 1997: リーメンシュナイダーの作品と生涯を包括的に解説した書籍。
杉田達雄『リーメンシュナイダー その人と作品』水声社 2017: リーメンシュナイダーの人物像と作品に焦点を当てた詳細な研究書。
イーリス・カルデン・ローゼンフェルト『リーメンシュナイダーとその工房』溝井高志訳、文理閣 2012: リーメンシュナイダーの工房に焦点を当てた研究書。
また、以下の書籍にも、リーメンシュナイダーに関する記述があります。
坂井栄八郎『ドイツ歴史の旅 増補』(朝日新聞社〈朝日選書〉1993): 「14
ヴュルツブルクとリーメンシュナイダー」の章で、彼の作品と
ヴュルツブルクとの関わりについて解説。
Lexikon des Mittelalters. Bd. VII. München: LexMA 1991: 中世史事典におけるリーメンシュナイダーの項目。
Alfred Schädler: Deutsche Plastik der Spätgotik. Karl Robert Langewiesche Nachfolger Hans Köster. Königstein im Taunus 1962: 後期ゴシック期のドイツ彫刻におけるリーメンシュナイダーの作品を紹介。
Der Creglinger Altar des Tilman Riemenschneider. Karl Robert Langewiesche Nachfolger Hans Köster. Königstein im Taunus. O.J.: クレクリンゲンの祭壇に焦点を当てた書籍。
Riemenschneider-Gestalten. Herausgegeben von Dr. Wolf Strache. Verlag Die Schönen Bücher, Stuttgart 1966: リーメンシュナイダーの作品集。
これらの書籍や研究論文は、リーメンシュナイダーの芸術をより深く理解するための貴重な資料です。