ティンクチャー (紋章学)

紋章学におけるティンクチャー（英: tincture、仏: couleur）とは、紋章に使用される色のことです。これは、中世ヨーロッパにおいて、騎士や貴族を戦場で識別するために発展した、独特の色彩体系です。ティンクチャーは、大きく分けて以下の3種類に分類されます。

金属色 (Metals)
原色 (Colours)
毛皮模様 (Furs)

紋章における色の重要性

中世ヨーロッパにおいて、紋章は単なる装飾ではなく、個人の身分や家柄を示す重要な役割を担っていました。特に戦場では、鋼鉄製の兜で顔が隠された騎士を識別するために、遠くからでも見分けやすい色の使用が求められました。そのため、紋章に使用できる色は非常に限定され、それぞれの色には明確な意味が込められていたのです。

金属色 (Metals)

金属色は、アージェント（銀色）とオーア（金色）の2色から構成されます。アージェントは白色、オーアは黄色で代替されることもあります。これらの色は、原色と比較して明るい色とされ、「ライト・ティンクチャー」と呼ばれることもあります。ペトラサンクタの方法では、アージェントは白抜き、オーアは点描で表現されます。

アージェント (Argent): 銀色または白色を表します。
オーア (Or): 金色または黄色を表します。

原色 (Colours)

原色は、アジュール（青色）、ギュールズ（赤色）、パーピュア（紫色）、ヴァート（緑色）、セーブル（黒色）の5色で構成されます。これらの色は金属色と比較して暗い色とされ、「ダーク・ティンクチャー」と呼ばれることもあります。ペトラサンクタの方法では、各色が異なる記号で表現されます。

アジュール (Azure): 青色を表します。
ギュールズ (Gules): 赤色を表します。
パーピュア (Purpure): 紫色を表します。紋章での使用頻度は比較的低いです。
ヴァート (Vert): 緑色を表します。
セーブル (Sable): 黒色を表します。中央ヨーロッパでは原色として扱われない場合もあります。

毛皮模様 (Furs)

毛皮模様には、アーミンとヴェアの2種類があります。アーミンはシロテンの毛皮、ヴェアはリスの毛皮を表現したもので、いずれも2色を用いた模様です。紋章学上、これらの模様は1色として扱われ、金属色と原色の両方の隣に配置できます。模様の色や配置を変化させた様々なバリエーションも、1色として数えられます。

アーミン (Ermine): シロテンの毛皮を表します。
ヴェア (Vair): リスの毛皮を表します。

自然色 (Proper)

自然色とは、上記のいずれのティンクチャーにも当てはまらない色で、「自然界に存在する色」を指します。例えば、人間の肌色や植物の花、葉の色などがこれにあたります。紋章に自然の色を使用したい場合、あえてオーアやヴァートといった既存のティンクチャーではなく、自然色として記述することがあります。

ペトラサンクタの方法

中世では、白黒の印刷技術しか存在しなかったため、紋章の色を白黒で表現する必要がありました。ペトラサンクタの方法とは、このために考案された、最も広く用いられている表現方法です。金属色、原色、毛皮模様のそれぞれに、固有の白黒パターンが割り当てられています。

まとめ

紋章のティンクチャーは、単なる色ではなく、中世ヨーロッパの文化や歴史を反映した、複雑な体系です。それぞれの色には意味やルールがあり、それらを理解することで、紋章をより深く読み解くことができるでしょう。

外部リンク

コウブチ紋章資料館
紋章学総合サイト
中世ヨーロッパの風景 「紋章について」
Dragon's Lair「ヨーロッパ紋章学」

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