テイレシアース

ギリシア神話における盲目の予言者、テイレシアース

テイレシアースは、ギリシア神話に登場するテーバイの予言者として知られています。様々な文献でティーレシアース、テイレシアス、ティレシアスなど、表記に揺らぎが見られますが、いずれも同一人物を指します。彼の父はエウエーレース、母はニュムペーのカリクローであり、スパルトイの一人ウーダイオスの子孫であるとされています。

ソポクレスの『オイディプス王』や『アンティゴネー』を始め、テーバイを舞台とする多くの作品に重要な登場人物として登場し、フランスの作曲家プーランクのオペラ『ティレジアスの乳房』でもその名が取り上げられています。

盲目と予言の力

テイレシアースは盲目の予言者として有名ですが、その盲目の原因については諸説あります。

一説には、アテーナーの沐浴中にその姿を見てしまったため、アテーナーの怒りを買い盲目になったと伝えられています。しかし、アプロディーテー（あるいはアテーナー自身）はこれを哀れみ、代わりに予言の力を与えたとされています。

別の説では、アルカディア地方のキュレーネー山中で交尾中の蛇を殺したため、女性に変化したとされています。7年から9年間女性として過ごした後、再び交尾中の蛇を見つけ殺すと、元に戻ったというのです。

さらに有名なのは、ゼウスとヘーラーの間で起きた議論です。男女の快楽の度合いについて意見が対立した二神は、テイレシアースに判定を仰ぎました。テイレシアースは、女性の快楽の方が男性の10倍大きいと答えたため、ヘーラーの怒りを買い盲目になったとされます。しかし、ゼウスは彼に予言の力と長寿を与え、死後も予言の力を保つことを許しました。オデュッセウスの物語にもその名が記されています。

数々の予言

テイレシアースは数々の予言を残しました。その中には、ナルキッソスに対する予言もあります。「己を知らないままでいれば、長生きできるであろう」という、皮肉にも水鏡に映った自分自身を見て予言が的中する、悲しい予言です。

しかし、もっとも有名なのはソポクレスの『オイディプス王』における予言でしょう。

オイディプス王における役割

オイディプス王の治世下、テーバイは不作と疫病に見舞われていました。クレオーンがデルポイの神託を求めた結果、先王ラーイオス殺害の祟りであることが判明し、殺害者を突き止め追放することが必要とされました。

そこで、テイレシアースに真実を尋ねますが、テイレシアースは卜占によって真実を知りながらも、オイディプスに伝えることをためらいます。しかし、オイディプスの詰め寄りに怒り、ついにオイディプス自身こそがラーイオス殺害者であり、疫病の原因であると告げます。

オイディプスは激怒し、クレオーンとの共謀を疑いますが、次第に自身の犯した罪に気づき、自ら目をくり抜き、テーバイを追放されることをクレオーンに懇願します。

テイレシアースの予言は、オイディプス王の悲劇の鍵であり、ギリシア悲劇における運命の残酷さと、人間の業の深さを象徴する出来事となっています。彼の予言は、多くの場合、避けられない運命を暗示し、聴く者にとって衝撃的な真実をもたらすものでした。テイレシアースの生涯は、予言者としての能力と、その能力ゆえに背負わなければならなかった苦悩と運命の複雑さを物語っています。

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