テクノスケープ

テクノスケープ（technoscape）とは、人間が技術システムを駆使して作り上げた構造物や施設が織り成す景観のことです。かつては「産業景観」という名で広く認識されていましたが、近年ではその捉え方が深まり、「テクノスケープ」という概念で語られるようになりました。

この景観を構成する要素は多岐にわたります。代表的なものとしては、工場やコンビナートといった大規模な建築群による「工場景観」が挙げられます。しかし、それだけにとどまりません。送電用の鉄塔、河川を制御する水門、広大な空間を結ぶ橋梁、水を湛えるダムといった土木構造物。さらに、線路を行き交う列車や空を飛ぶ航空機のような大型の移動機械、あるいは風力発電所をはじめとする様々な発電施設なども含まれます。これらの構造物や機械は、現在稼働しているものも、役割を終え退役したものも、テクノスケープの一部として空間を構成しています。テクノスケープは、このように各種産業活動を支えるために構築されたものが、今日では独自の美しさや歴史的文脈を持つ景観資源として注目されています。

景観に対する見方は時代とともに変化してきました。伝統的な風景観は17世紀に確立された古典的な美意識に基づいています。しかし、テクノスケープは、そうした旧来の枠組みが有効でなくなったという前提に立つ新しい風景観、いわゆる「新風景」の一つとして捉えられます。特に、「情報化時代の風景」といった現代的な景観の概念とも深く関連しています。

もともと、工場の煙突や建物、クレーン、高架高速道路、ガスタンクなどの人工物は、「工業景観」と呼ばれ、その建設はひたすら実質的な機能の追求を目的としていました。ところが、これらの工作物は、意図された機能とは別に、その独自の形態やデザイン、あるいは工業発展の過程で必然的に生まれた構造の巧みさによって、見る者に時に芸術的な感動を与え、魅了することがあります。テクノスケープが織り成す景観の価値は、このような経緯から、「作り手側が定めたものではなく、その景観を目にする人々がそこに独自の価値を見出す」という考え方が生まれたことによって認識されるようになったと言えます。

近年、テクノスケープは新たな命を吹き込まれる試みも盛んに行われています。これはコンバージョン（Conversion）、すなわちかつての産業施設を別の用途に転換して活用する取り組みです。世界的に知られる代表例としては、アメリカ合衆国シアトル市にある「ガスワークパーク」があります。これは、かつてガス製造工場だった敷地が、リチャード・ハーグの設計によって緑豊かな公園へと生まれ変わったものです。また、ドイツのルール地方における広範な再開発プロジェクトである「IBAエムシャーパーク」や、フランスのアルザス地方にある広大な野外博物館「エコミュゼ・ダルザス」（エコミュージアムの一種）なども、産業遺産をテクノスケープとして保全・活用した好例として知られています。

テクノスケープは、単なる機能的な構造物の集まりではなく、産業の歴史、人間の営み、そしてそれを見る人々の感性が交錯することで生まれる、現代ならではの多様な魅力を持つ景観と言えるでしょう。

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