テセル島の海戦

テセルの海戦：第三次英蘭戦争におけるオランダの勝利

テセルの海戦、またはケイクダインの海戦は、1673年8月21日（ユリウス暦8月11日）に、第三次英蘭戦争においてイングランド・フランス連合艦隊とネーデルラント連邦共和国（オランダ）海軍の間で戦われた海戦です。この戦いは、オランダが英仏連合艦隊の上陸作戦を阻止することに成功し、戦略的勝利を収めました。

戦いの背景

1672年に始まった第三次英蘭戦争は、イングランド・フランス連合軍がソールベイの海戦やスホーネヴェルトの海戦で連敗を喫し、親フランスの立場から戦争を始めたイングランド王チャールズ2世に対する議会の非難が高まり、戦争継続が困難な状況となっていました。フランス海軍も積極的な行動を見せず、戦力として不安視されていました。

1673年、イングランドはオランダのゼーラント州侵攻を計画し、フランスから派遣されたフレデリック・ションベールを指揮官とする遠征軍を編成しました。海軍卿のカンバーランド公ルパートを艦隊司令官として遠征計画を立案しましたが、オランダ海軍が健在である以上不可能であり、ルパートとションベールの仲も悪く、実行に移すことができませんでした。

7月27日に英仏連合艦隊が出撃し、29日に兵員輸送船団が一旦グレート・ヤーマスに寄港しました。連合艦隊はオランダ海軍と遭遇しましたが、戦闘には至らず、オランダ海軍はスホーネヴェルトへ撤退しました。連合艦隊は北上し、テセルに停泊しました。

ルパートは兵員輸送船団を呼び寄せようとしましたが、嵐に遭遇したため不可能となり、10日間身動きが取れませんでした。一方、オランダは上陸の脅威から警戒態勢に入り、オランダ総督ウィレム3世（後のイングランド王ウィリアム3世）と艦隊司令官ミヒール・デ・ロイテルも出撃し、イングランド軍を叩く方針を固めました。ロイテルは艦隊を率いて8月13日にテセルへ向かいました。

海戦の展開

テセルに到着後、しばらく両軍は嵐のため交戦しませんでしたが、8月20日に戦端が開かれました。この日は風上の位置を奪うための牽制に終始しましたが、オランダ艦隊は夜の内に風上を取り、翌21日の明け方に本格的な戦闘が始まりました。

イングランド・フランス連合艦隊は戦列艦92隻（イングランド62隻、フランス30隻）、オランダ艦隊は75隻、火船は両方とも30隻でした。連合艦隊は先頭の青色艦隊をスプラッグ、中央の赤色艦隊をルパート、後列の白色艦隊をフランスのジャン・デストレが指揮しました。オランダ艦隊は先頭をコルネリス・トロンプ、中央をロイテル、後列をアドリアン・バンケルトが率いました。

オランダ艦隊はテセルを東にして北上し、連合艦隊もオランダ艦隊の西側で同じく北へ進み、様子を伺いました。最初に動いたのはオランダ艦隊で、ロイテルはバンケルト艦隊を分割して一部をフランス艦隊に差し向け、残りと中央艦隊を赤色艦隊にぶつける作戦を取りました。この作戦は成功し、デストレは少数の敵を追って戦場から離れていきました。一方、前列では両軍共に単独で戦闘を開始し、互いの旗艦が行動不能になるほどの激戦となりました。スプラッグは3隻目の旗艦に乗り移ろうとして移動中に乗ったボートが攻撃され戦死し、やがて青色艦隊は西へ引き上げていきました。

中央では、赤色艦隊がロイテル艦隊とバンケルト艦隊の攻撃で不利な状況に追い込まれ、赤色艦隊後列が敵に分断されたこととフランス艦隊が救援に来ないことから、オランダ艦隊に包囲されました。ルパートは奮戦して壊滅を阻止し、反撃を試みましたが戦果を挙げられず、夜になると互いに力尽きて戦場から撤退していきました。

戦いの結果と影響

両軍は戦列艦こそ失いませんでしたが、人的被害は大きく、オランダ艦隊は1000人、連合艦隊は2000人が戦死しました（火船も数隻消耗）。戦略的には、連合艦隊の侵攻作戦を阻止したオランダが勝利を収めたと言えます。

戦後、フランスの非協力的な態度が問題視され、9月にイングランド海軍は帰国し、遠征軍も解散しました。議会の反フランス感情は強まり、貿易再開の望みから反戦論が勢いを増し、議会に屈したチャールズ2世は戦争続行を断念し、1674年にウェストミンスター条約を結んで英蘭戦争を終わらせました。

テセルの海戦は、オランダが自国の独立を守り抜いた象徴的な戦いとして、歴史に刻まれています。

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