テセル島沖海戦:第一次世界大戦における水雷艇の激戦
第一次世界大戦中、
オランダのテセル島沖で繰り広げられたテセル島沖
海戦は、
イギリス海軍とドイツ海軍の間の重要な
海戦の一つです。この戦いは、日常的な哨戒任務を行っていたイギリス艦隊と、
機雷敷設任務中のドイツ水雷艇隊との間で発生しました。
背景
ヘルゴラント・バイト
海戦での敗北後、ドイツの
大洋艦隊は、大規模な損失を避けるため、優勢な敵との直接的な衝突を避ける戦略を採用していました。その結果、
北海は
イギリス海軍が定期的に哨戒を行う海域となり、ドイツ軍による散発的な襲撃を除けば、
イギリス海軍が制海権を握っていました。
1914年10月17日午後1時50分、イギリスの軽巡洋艦「アンドーンテッド」と4隻の駆逐艦(ラフォーレイ級駆逐艦「レノックス」「ランス」「ロイヤル」「リージョン」)からなるハリッジ部隊の第3駆逐群は、テセル島沖を哨戒中に、ドイツの第7半隊と遭遇しました。この第7半隊は、水雷艇S115、S117、S118、S119で構成され、ゲオルク・ティーレ少佐が指揮していました。S119は第7半隊の旗艦でした。
当初、ドイツ軍はイギリス艦隊を友軍と誤認したかのように、攻撃や逃走の行動を取りませんでした。しかし、実際にはドイツの第7半隊は、エムス川から出撃し、
テムズ川河口への
機雷敷設に向かう途中であり、偶然にイギリスの第3駆逐群と遭遇したのです。
戦力比較
イギリスの第3駆逐群は、ドイツの第7半隊に対して圧倒的な戦力を持っていました。
イギリス海軍:
軽巡洋艦「アンドーンテッド」:6インチ単装砲2基、4インチ単装砲6基、魚雷発射管8門を搭載、最高速度28.5ノット
ラフォーレイ級駆逐艦:魚雷発射管2門、4インチ砲3門、2ポンドポンポン砲1門を搭載、最高速度約29ノット
ドイツ海軍:
* 1898型水雷艇:5cm砲3門、45cm魚雷発射管3門(魚雷5本搭載)、最高速度28ノット
ドイツの水雷艇は旧式であり、特に砲撃能力においてイギリス艦隊に大きく劣っていました。
戦闘の経過
イギリス軍が接近すると、ドイツ軍は逃走を開始しましたが、最初に「アンドーンテッド」が最も近い水雷艇への砲撃を開始しました。その水雷艇は「アンドーンテッド」の攻撃を回避しようとしたものの、速度が足りずに追いつかれました。
「アンドーンテッド」を雷撃から守り、ドイツ水雷艇を撃破するため、フォックス艦長はイギリス艦隊を二手に分けました。「ランス」と「レノックス」はS115とS119を追跡、「リージョン」と「ロイヤル」はS117とS118を追跡しました。
「リージョン」と「ロイヤル」に追跡されたS118は、集中砲火を受けて艦橋が吹き飛び、午後3時17分に沈没しました。一方、「ランス」と「レノックス」はS115を攻撃し、操舵不能に陥らせました。S115は艦橋を破壊されながらも降伏せず、戦闘を継続しました。
その後、S117とS119は「アンドーンテッド」への雷撃を試みましたが、失敗に終わりました。「リージョン」と「ロイヤル」はS118を沈めた後、「アンドーンテッド」に合流し、S117とS119に攻撃を加えました。「リージョン」はS117を撃破し、S117は午後3時30分に沈没しました。一方、「ランス」と「レノックス」はS115の攻撃を続け、「ランス」はS115との戦闘を切り上げ、「ロイヤル」と合流してS119を攻撃しました。S119は「ランス」に魚雷を発射しましたが、不発に終わりました。S119は「ランス」と「ロイヤル」の砲撃を受け、ティーレ少佐とともに午後3時35分に沈没しました。
残るS115は、「レノックス」から攻撃を受け続け、イギリス駆逐艦が乗り込むまで持ちこたえましたが、乗員は一人を除き全滅していました。午後4時30分、「アンドーンテッド」がS115を砲撃し、戦闘は終結しました。
戦闘の結果
この
海戦で、ドイツの第7半隊は全滅し、4隻の水雷艇は全て沈没、指揮官を含む200人以上が
戦死しました。イギリス軍の損害は軽微で、4名が負傷し、3隻の駆逐艦がわずかに損傷した程度でした。
この
海戦での敗北は、ドイツ軍の指揮官たちの間で、水雷艇部隊の有用性に対する信頼を大きく揺るがすことになりました。その結果、
北海の残りの水雷艇部隊の戦術や配置に大きな影響を与え、
イギリス海峡への出撃はほぼ無くなり、水雷艇部隊は沿岸哨戒やパイロットの救助に回されるようになりました。
また、この
海戦で
戦死したドイツ軍の指揮官、ティーレ少佐が戦闘中にS119から投棄した暗号書が、後にイギリスの漁船によって回収され、イギリス軍はドイツの暗号文を解読することに成功しました。
テセル島沖
海戦は、第一次世界大戦における小規模な
海戦でしたが、その後の戦局に少なからぬ影響を与えた重要な戦いでした。