テラピン水陸両用車

テラピン4トン水陸両用装甲車：第二次世界大戦におけるイギリスの水陸両用戦力

第二次世界大戦下、イギリス軍はノルマンディー上陸作戦をはじめとする様々な作戦において、兵員や物資を効率的に輸送できる水陸両用車両を必要としていました。アメリカ製のDUKWが有力な選択肢でしたが、供給不足という課題がありました。この状況を打破するため、イギリス軍需省はソーニクロフト社に水陸両用車の開発を依頼、その結果誕生したのがテラピン4トン水陸両用装甲車です。

開発と配備

テラピンは、主に第79機甲師団隷下の英国陸軍王立工兵隊に配備され、カナダ軍やイギリス軍の歩兵部隊の渡河輸送などに用いられました。1944年のアントワープでの初陣、そしてスヘルデの戦いでその能力を発揮しています。モーリス商業車両社によって約500両のMk.Iが生産されましたが、改良型のMk.IIは試作段階で終わっています。これは、アメリカ製のDUKWの供給が安定してきたことと、Mk.Iの設計上の問題点が大きく影響していると考えられます。

Mk.Iの設計と問題点

テラピンMk.Iは、ボート型車体に前後の車軸を高く配置した独特の設計を持っていました。これは、傾斜地での走行性や柔らかい地盤での支持性向上に役立ちましたが、一方で多くの問題も抱えていました。

まず、車高が2.92mと非常に高く、M4シャーマン中戦車よりも高かったことが挙げられます。オープントップ構造でドアも無かったため、乗員は敵の砲火にさらされる危険性と、車両から降りる際に転落する危険性に晒されました。

また、フォードV8エンジンを2基搭載し、スキッドステア方式で操縦する複雑なシステムは、信頼性に欠けていました。エンジンの故障は直進さえ困難にする要因となり、戦闘における運用に大きな支障をきたしました。さらに、エンジンが中央に配置されていたため、貨物室が前後2つに分割され、大型の装備を積載することが困難でした。

性能面でも課題がありました。DUKWよりはるかに大きなエンジン出力を持っていたにも関わらず、陸上最高速度は時速24kmと遅く、水上速度もDUKWに劣っていました。喫水が深いため、荒波での浸水リスクも高かったです。加えて、運転席の位置が中央部にあり、視界が悪かったことも大きな欠点でした。

これらの問題点が、Mk.IIの開発中止、ひいてはテラピン計画そのものの終焉に繋がったと言えるでしょう。

Mk.IIの設計

Mk.IIはMk.Iの欠点を改善するため、運転席を前方に移動し、車軸間隔とオーバーハングを延長した改良型です。全長はMk.Iの7mから9.4mに増加しました。しかし、この改良型は試作段階で終わっています。

現状

現在、少数のテラピンMk.Iが、イギリスやオーストラリアの蒐集家の手によって保存されています。これらの車両は、戦争の歴史を伝える貴重な遺産として、大切に保管されています。

まとめ

テラピン4トン水陸両用装甲車は、第二次世界大戦におけるイギリスの水陸両用戦力の歴史を語る上で重要な存在です。その独特な設計と、数々の問題点、そして短命に終わった歴史は、当時の技術的制約と戦争の激しさを象徴するものです。アメリカ製のDUKWとの比較を通して、当時の水陸両用車両の技術開発状況を考える上でも、重要な資料となるでしょう。テラピンの残存車両は、歴史的遺産として、そして技術史の教訓として、今後も大切に保存・研究されるべきでしょう。

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