テリ・リン・キャリントン

テリ・リン・キャリントン



テリ・リン・キャリントン(Terri Lyne Carrington、1965年8月4日 - )は、アメリカ合衆国出身の多才なミュージシャンです。ドラマーとして卓越した技術を持つだけでなく、プロデューサー、コンポーザー、そしてシンガーソングライターとしても活動しており、現代ジャズ界において重要な役割を担っています。

来歴



マサチューセッツ州メッドフォードに生まれたキャリントンは、サックス奏者であった父ソニーの影響を受け、幼少期に音楽に触れました。当初は父と同じくサックスを演奏していましたが、7歳になる頃にはドラムへと転向し、キース・コープランドに師事します。その才能は早期から開花し、12歳という若さでバークリー音楽大学の奨学金を獲得しました。10代の頃には、アラン・ドーソンからドラム演奏だけでなく作編曲についても学び、その音楽的基盤を築き上げます。1983年、18歳を迎えた彼女は、ジャック・ディジョネットの勧めもあり、ジャズの中心地であるニューヨークへと活動の拠点を移しました。

ニューヨークでは、ジェームズ・ムーディーやクラーク・テリーといったベテランミュージシャンたちとの共演を通じて経験を積みました。中でも転機となったのは、ウェイン・ショーターのバンドへの参加です。オーディションに見事合格し、アルバム『ジョイ・ライダー』のレコーディングに参加。さらにツアーにも帯同することで、ドラマーとしての実力と名声を確立していきます。ウェイン・ショーターとの活動を続けるため、彼女はロサンゼルスへと転居しました。また、同時期にはデイヴィッド・サンボーンのバンドにも参加するなど、活躍の場を広げました。

1989年には、自身のリーダー作となるデビュー・アルバム『リアル・ライフ・ストーリー』をヴァーヴ・フォアキャストより発表します。ウェイン・ショーターをはじめとする豪華ゲスト陣を迎えたこの作品は、グラミー賞にもノミネートされ、彼女のキャリアにおける重要な一歩となりました。1990年代に入ると、ウェイン・ショーターとの活動に加え、スティーヴィー・ワンダーハービー・ハンコックジョニ・ミッチェルといったジャズ界にとどまらない幅広い分野の著名アーティストたちとの共演を重ね、その評価を不動のものとしました。

2000年代以降も、キャリントンの活動は多岐にわたります。2002年には、ドイツのACTレーベルからセカンド・アルバム『ジャズ・イズ・ア・スピリット』をリリース。このアルバムには、ハービー・ハンコックやウォレス・ルーニーといった実力派ミュージシャンたちが参加しています。また、ジャズの教育にも情熱を注ぎ、IAJE(国際ジャズ教育協会)などで後進の育成に尽力しました。2007年には、マイルス・デイヴィスの後期を支えたロバート・アーヴィング3世と共に、自身のレーベルであるソニック・ポートレイツ・エンタテインメントを設立し、アーティストの作品発表の場を提供しています。近年はボストンを拠点として活動しており、2006年には息子ドリアンが誕生しました。2008年には、注目の女性ベーシストであるエスペランサ・スポルディングとのツアーを行い、同年11月から12月にかけては、自身の名を冠したバンドとして初の日本公演も実現させました。翌2009年6月には、新作『モア・トゥ・セイ』を携え、再び日本の地で演奏を披露しています。

特に近年は、演奏活動だけでなく、ジャズ界における社会的な課題にも積極的に取り組んでいます。2011年にリリースした『モザイク・プロジェクト:ジャズと生きる女たち』は、ジャズ界の女性ミュージシャンたちに焦点を当てた作品として大きな反響を呼び、第54回グラミー賞で最優秀ジャズ・ボーカル・アルバムを受賞しました。続く2013年のアルバム『マネー・ジャングル2013』も、第56回グラミー賞で最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバムを獲得するなど、リーダーとしても高い評価を得ています。2018年には、母校であるバークリー音楽大学に新設された「バークリー・インスティテュート・フォー・ジャズ・アンド・ジェンダー・ジャスティス」の創設者兼アートディレクターに就任し、ジャズにおけるジェンダー平等の推進と教育に力を注いでいます。

テリ・リン・キャリントンは、その卓越したドラミングと音楽的才能だけでなく、プロデューサーとしての手腕、そして教育者・活動家としての情熱を通じて、現代ジャズシーンにおいて不可欠な存在として活躍を続けています。

ディスコグラフィ



リーダー・アルバム



『リアル・ライフ・ストーリー』 - Real Life Story (1989年、Verve Forecast)
ジャズ・イズ・ア・スピリット』 - Jazz Is a Spirit (2002年、ACT)
『ストラクチャー』 - Structure (2004年、ACT)
『モア・トゥ・セイ』 - More to Say (Real Life Story: NextGen.) (2009年、E1 Entertainment)
『モザイク・プロジェクト:ジャズと生きる女たち』 - The Mosaic Project (2011年、Concord) ※第54回グラミー賞(最優秀ジャズ・ボーカル・アルバム)
『マネー・ジャングル2013』 - Money Jungle: Provocative in Blue (2013年、Concord) ※第56回グラミー賞(最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム)
The Mosaic Project: Love and Soul (2015年、Concord/Universal)

外部リンク



公式サイト
* Sonic Portraits

もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。