エスペランサ・スポルディング

エスペランサ・スポルディング：ジャンルを超越する音楽の探求者

エスペランサ・スポルディング（Esperanza Spalding, 1984年10月18日 - ）は、アメリカ合衆国オレゴン州ポートランド出身のマルチ・インストゥルメンタリストです。主にジャズ・ベーシスト、歌手として知られていますが、彼女の音楽性はジャズという枠に留まらず、様々なジャンルを横断する、非常に幅広いものです。

生い立ちと多様なルーツ

ポートランド近郊で育ったスポルディングは、シングルマザーである母親に育てられました。彼女はアフリカ系アメリカ人、ウェールズ、スペインの血を引いており、多様な民族的遺産を受け継いでいます。特に、母親が南カリフォルニア出身でキューバ人の乳母として働いていたことから、ヒスパニック文化の影響も強く受けています。彼女自身もこれらの多様な文化的背景が、自身の音楽性を形成する上で重要な役割を果たしていると語っています。また、ブラジル文化にも強い関心を持ち、ポルトガル語の音楽の美しさに魅了されています。

幼少期は体が弱く、小学校にあまり通えなかったため、ホームスクーリングで教育を受けました。4歳の時にヨーヨー・マの演奏を見て感動したことがきっかけで音楽家を志すようになり、5歳になるまでにはヴァイオリンをマスターし、地域の集まりで演奏していました。その後、キング小学校に転校し、8歳頃から母親のジャズ・ギター教師に師事し、音楽の才能を開花させていきました。高校ではダブル・ベースを始めますが、それ以前にはオーボエやクラリネットも演奏していました。また、英語、スペイン語、ポルトガル語で歌うことができる語学力も持ち合わせています。

ベースとの出会いと音楽の道へ

当初はチェロを希望していましたが、アートスクールの名門であるノースウエストアカデミーへの奨学金を得たことがきっかけで、ベースに転向します。その理由について彼女は、「独特の形」と音に共鳴したからだと語っています。本格的にベースを弾き始めたのはこの頃からで、バンドの教師から教わったブルースのベースラインをきっかけに、ベースに夢中になっていきました。

14歳でノースウエストアカデミーを中退後、15〜16歳頃にはローカルバンド“Noise for Pretend”に歌詞を提供するようになり、その後ボーカルとしてもデビューします。創作活動から演奏活動へと自然に移行していきましたが、メロディとボーカルを両立させることの難しさを実感し、優れたベーシスト、バンドリーダーを目指すようになったといいます。

高校卒業後、ポートランド州立大学に進学し、音楽特待生として奨学金を得ます。その後、バークリー音楽大学への転入を勧められ、オーディションに合格し全額奨学金を獲得します。しかし、生活は困窮しており、友人たちの協力でコンサートを開き、ボストンへの渡航費を工面するほどでした。バークリーでの生活も決して楽ではありませんでしたが、ジャズギタリスト／作曲家のパット・メセニーに才能を見出され、音楽の道を諦めずに済みました。

ツアーと教鞭

10代の頃からポートランドのクラブで演奏活動を始め、15歳でブルースクラブにデビューしました。デビュー当初は1種類のベースラインしか弾けなかったものの、1年後には一人前の演奏を披露するまでに成長しました。パティ・オースティンのエラ・フィッツジェラルドのトリビュート・ツアーにシンガーとして参加したことで、同じ曲を演奏する場合でも常に新しい表現を追求することの大切さを学びました。また、ジョー・ロヴァーノのツアーにも同行し、アメリカ各地で演奏しました。

2005年には、バークリー音楽大学を卒業し、弱冠20歳にして同大学の講師に就任。学生たちの練習日誌をもとに、スキルアップのための練習法をサポートしていました。現在はバークリーでの教職から離れ、テキサス州オースティンに在住しています。

リーダー作と共演

Junjo (2006)、Esperanza (2008)、Chamber Music Society (2010)、Radio Music Society (2012)、Emily's D+Evolution (2016)、Exposure (2017)の6枚のアルバムをリリースしています。これらのアルバムでは、ジャズをベースに、ブラジル音楽やヒップホップなど、様々な音楽要素を取り入れた独自のサウンドを展開しています。また、フォープレイ、スタンリー・クラーク、クリスチャン・スコット、ジョー・ロヴァーノなど、様々なアーティストとのコラボレーションも行っています。

評価と影響

エスペランサ・スポルディングは、その才能と音楽性で多くの人々から高い評価を得ています。ゲイリー・バートンは彼女を「素晴らしいリズム感があり、非常に複雑な曲も自信をもって解釈できる」と評し、ベン・ラトリフは「ブロッサム・ディアリー並の声域を駆使したハイトーンをもち、白昼夢のような静かな歌唱も聴かせる」と評しています。パット・メセニーは「彼女には、自分独自の個人的なビジョンやエネルギーを伝えることができるという、類いまれな才能がある」と語っています。

彼女自身は、ロン・カーターやデイヴ・ホランド、ウェイン・ショーターから影響を受けたと語っており、ブラジル音楽も自身の音楽の重要な要素であるとしています。また、フュージョンを「40年前から現在にいたるまで音楽という文化にモダンなサウンドを提供し続けている素晴らしい発明品」と捉えています。

エスペランサ・スポルディングは、女性としての魅力ではなく、自身のミュージシャンシップを評価してほしいと強く望んでいます。彼女は、ジャンルや性別にとらわれず、常に新しい音楽の可能性を追求し続けています。

主な演奏活動

2009年には、ノーベル平和賞授賞式にてバラク・オバマ大統領を讃える演奏を披露し、翌日のノーベル平和賞コンサートにも出演しました。また、パークシティ・ジャズ・フェスティバルやオースティン・シティ・リミッツなど、数多くの音楽イベントに出演しています。

エスペランサ・スポルディングの音楽は、ジャズという枠を超え、多様な文化と音楽性を融合させた、唯一無二のサウンドです。彼女の音楽は、聴く人々に新たな発見と感動を与え続けています。

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