テルモコックス綱

テルモコックス綱 (Thermococci)

はじめに

テルモコックス綱（学名: Thermococci、通称: サーモコッカス綱）は、ユーリ古細菌門に属する綱の一つです。この綱に含まれる微生物は、主に海洋の熱水域に生息する超好熱菌のグループとして広く認識されています。

生息環境

本綱の微生物は、特に深海の熱水噴出孔から頻繁に分離される代表的な生物の一種です。深海環境に加え、油田鉱床や比較的浅い海域の熱水域からも報告例があります。一方で、陸上の温泉や熱泉からは現在まで分離された例がありません。過去に海底火山の噴火時に周辺海域から高濃度で検出された事例があり、このことから、その主要な生息場所は熱水噴出孔の周辺地下にあると考えられています。

生理と代謝

テルモコックス綱に属する全ての種は、極めて高温を好む超好熱性（一般的に生育最適温度が80℃を超える）、酸素が全く存在しない環境でしか生育できない偏性嫌気性、そして有機物を分解して栄養を得る従属栄養性の性質を持っています。これらの微生物は、熱水域に存在するペプチドや多糖類を分解することで生命活動に必要なエネルギーを獲得しています。

彼らの代謝には独特な特徴があります。代謝の結果として発生する水素は、彼らの増殖を強く阻害することが知られています。この水素を除去するため、彼らは環境中の単体硫黄や硫化金属と水素を反応させ、硫化水素として体外へ排出します。この代謝経路があるため、テルモコックス綱の微生物は、単体硫黄や硫化金属が多量に存在する環境を特に好適な生息場所としています。

形態と構造

細胞の形態は、サイズがおおよそ1〜2マイクロメートル（μm）程度の不定形な球状をしています。あまり特徴的な形態は見られません。大部分の種は、細胞の一端または両端に複数の鞭毛を備えており、これにより水中を運動することが可能です。細胞の外層である細胞壁は、主にS層と呼ばれるタンパク質性の構造から構成されています。ただし、一部の種では細胞壁を欠損していることもあります。その他の基本的な性質は、ユーリ古細菌としての一般的な特徴と共通しています。

進化的な位置づけ

進化の観点から見ると、テルモコックス綱はユーリ古細菌門の系統樹において、比較的基部（早い段階）で分岐したグループであると考えられています。これは、ユーリ古細菌全体の進化を探る上で重要な情報を提供します。

分類

テルモコックス綱の下位分類は以下のようになっています。

テルモコックス目 (Thermococcales)
テルモコックス科 (Thermococcaceae)
_Thermococcus_属
_T. celer_
_T. acidaminovorans_
_T. aegaeus_
_T. aggregans_
_T. alcaliphilus_
_T. atlanticus_
_T. barophilus_
_T. barossii_
_T. celericrescens_
_T. chitonophagus_
_T. coalescens_
_T. fumicolans_
_T. gammatolerans_
_T. gorgonarius_
_T. guaymasensis_
_T. hydrothermalis_
_T. kodakarensis_
_T. litoralis_
_T. pacificus_
_T. peptonophilus_
_T. profundus_
_T. sibiricus_
_T. siculi_
_T. stetteri_
_T. thioreducens_
_T. waiotapuensis_
_T. zilligii_
_Pyrococcus_属
_P. furiosus_
_P. glycovorans_
_P. horikoshii_
_P. woesei_
_Palaeococcus_属
_P. ferrophilus_
_P. helgesonii_

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