テルース

ローマ神話の大地母神テルース：母なる大地と宇宙への広がり

ローマ神話において、テルース (Tellus) あるいはテラ (Terra) は大地を司る女神として崇められていました。ラテン語で「大地」を意味するこれらの名は、近代ラテン語では「地球」をも意味するようになり、英語のearthと同様の広がりを持っています。母なる大地を意味する「テラ・マーテル (Terra Mater)」の呼び名でも親しまれていました。

テルースは、ギリシア神話の大地母神ガイアに対応する存在とされています。ただし、ローマ神話におけるテルースはガイアほど明確な神話体系を持たず、独立した神話を持つわけではありません。興味深いことに、豊穣の女神デーメーテールや、穀物と農業の女神ケレースと同一視されることもありました。これは、大地が生命を育むという共通の側面から、これらの女神たちが結び付けられたと考えられます。

テルースには、対となる男神テルーモー (Tellumo) が存在したという記述も見られます。これは、大地の活動や力といった男性的な側面を象徴していたのかもしれません。

テルースと科学：元素テルル

テルースの名は、科学の世界にもその痕跡を残しています。元素記号Teで表されるテルル (Tellurium) は、このローマ神話の大地女神から命名されました。周期表において、テルルは月を司るギリシア神話のセレーネーに由来するセレン (Selenium) と隣り合う位置にあり、両元素の関連性を示唆する興味深い対比となっています。

地球の別名としてのテラ/テルス：SF作品における表現

SF作品において、テラやテルスはしばしば地球の別名として用いられています。これは、ローマ神話における大地の女神としてのイメージと、地球という惑星そのものの重なり合いから生まれた、自然な表現と言えるでしょう。

例えば、E・E・スミスによる『レンズマン』シリーズ (1937) では、「テルス」が地球の別名として登場します。この作品において、テルスは銀河パトロール隊の発祥地であり、人類文明の中心地として描かれています。しかし、物語の展開と共に、文明の中心はクロヴィアへと移り変わっていきます。

また、ジャック・ウィリアムソンによる『シーティー』シリーズの1作、『シーティー・シップ』Seetee Ship (1942) では、「テラフォーム」という造語が用いられました。これは、他の惑星の環境を地球のように変えるという意味で用いられ、この造語はフィクションの枠を超えて、現在では広く一般的に使われています。

さらに、日本の漫画家、竹宮惠子による作品『地球へ…』も、タイトルに「地球」を想起させる表現を用いるなど、テラ/テルスという名称が、現代においても地球を表す言葉として、様々な形で用いられていることがわかります。

このように、ローマ神話の大地母神テルースは、神話の世界にとどまらず、科学やSFといった現代の様々な分野において、その名と概念が受け継がれ、現代社会にまで影響を与え続けていると言えるでしょう。その多様な広がりは、大地の女神としての普遍的なイメージと、人類の想像力の豊かさの表れと言えるのではないでしょうか。

もう一度検索