ディオゴ・カン

大航海時代のポルトガルにおいて、探検家として輝かしい足跡を残した人物、ディオゴ・カン。彼は1480年代にアフリカ西海岸への二度の歴史的な航海を指揮し、未知の領域を開拓した。特に、コンゴ川の発見と到達は、ヨーロッパ地理学における重要な成果であり、その後のポルトガルの海外進出、とりわけ現在のアンゴラ地域における影響力の拡大に決定的な役割を果たした。彼は後のアンゴラ植民地化のきっかけを作った人物として、現在でもこの地で深く記憶されている。

彼の正確な生年月日は明らかではないが、15世紀半ばに貴族の庶子として生まれたとされている。生誕地については、ポルトガルのビラ・レアル説やエヴォラ説などが伝えられている。彼の家系は父方も祖父方も貴族でありながら庶子の流れを汲んでいる。

エンリケ航海王子の事業を継承し、海外への関心を高めていたポルトガル王ジョアン2世は、カンの類稀なる航海術と探検能力を認め、1482年夏頃、アフリカ赤道以南の未知なる地域への探検隊の指揮官に任命した。カンは船団を率いてアフリカ西岸を南下し、同年8月頃、未だヨーロッパ人には知られていなかった広大なコンゴ川の河口と三角江に到達した。彼は発見の記念とポルトガル王国の領有権を主張するため、持参したパドランと呼ばれる石柱をその地に設置した。この石柱の断片は現在も残されている。さらに探検隊はコンゴ川を遡り、現地のコンゴ王国との初めての接触を果たし、将来的な通商関係の基盤を築いた。その後、カンは海岸線に沿ってさらに南へ進み、現在のアンゴラの地に到達し、二本目の石柱を設置した。1484年4月、一行は無事リスボンへ帰還。その偉業を称え、カンはジョアン2世より騎士の称号を授与された。この航海の帰路には、ギニア湾に浮かぶアンノボン島も発見している。

1484年から1486年にかけて、カンは二度目のアフリカ探検に乗り出したとされる。この航海には、著名な地理学者マルティン・ベハイムが同行したとする説もあるが、その探検におけるベハイムの具体的な役割や航海の成果については、歴史家の間で議論があり、不明確な点が多い。二度目の航海でも、カンは二箇所に石柱を設置し、ポルトガルの到達点を示す記録を残した。特に注目すべきは、一度目の航海で到達した最南端地点から、さらに南へ約1400km進んだ、現在のナミビアにあるケープ・クロスに設置された石柱である。この地点は、ヨーロッパ人として彼が到達した最南端と考えられている。カンはまた、コンゴ川をさらに深く遡れば、伝説上のキリスト教国「プレステ・ジョアンの王国」にたどり着けるという期待を抱き、再び川を遡ることを試みた。しかし、現在のマタディ付近に存在する急流（イエララ滝周辺）に行く手を阻まれ、やむなく遡上を断念した。この断念地点に近い岩壁には、1485年10月か11月の日付とともに、探検隊の到達を記したラテン語の銘文が刻まれており、今もその痕跡を見ることができる。

ディオゴ・カンの正確な最期については諸説あり、歴史的な記録は一致していない。1489年に作成されたヘンリックス・マルテルスの世界地図には、彼が二度目の航海で到達した最南端、ケープ・クロスで死去したと示唆する記述がある。一方、当時の著名な歴史家であるジョアン・デ・バロスらの記述によれば、カンはコンゴ王国から特使を伴って無事にポルトガルへ帰還したとされている。このため、彼の実際の没地や没年は現在も確定しておらず、歴史家たちの間で議論が続いている。しかし、彼が二度の航海で設置した合計四本の石柱は、記録通りの場所で後に発見されている。これらの石柱には、それぞれ1482年と1485年の到達年が刻まれており、カンの探検の確かな証拠となっている。この石柱のうち、ケープ・クロスで発見された一本は、現在ドイツのキールにある博物館に保管されており、現地には複製が設置されている。残りの三本は、ポルトガルのリスボン地理学協会博物館に収蔵されており、カンの偉業を今に伝えている。ディオゴ・カンの探検は、アフリカ西岸の地理に関するヨーロッパの知識を飛躍的に拡大させ、その後のポルトガルの大航海時代における活動に重要な礎を築いたのである。

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