ディカーニカ近郷夜話

『ディカーニカ近郷夜話』（ディカーニカきんごうやわ）は、ロシアの作家ニコライ・ゴーゴリが1829年から1831年にかけて執筆した短編小説集です。この作品は、彼の故郷であるウクライナの豊かな民俗を背景にしており、さまざまな幻想的な要素や日常の出来事を巧みに織り交ぜています。ゴーゴリはこの作品を通じてその名声を確立し、後世にわたって数多くの読者に愛され続けています。

概要

ゴーゴリはウクライナ中部のソロチンツィで生まれ育ちました。彼がサンクト・ペテルブルクに上京したのは1828年のことでした。当時、ロシアでは国民文化が盛んに探求され、古い伝説や民話の収集が行われていました。この背景の中で、ゴーゴリはウクライナの民俗を基にした物語を書くことを決意します。しかし、彼自身はウクライナの風俗に関しては無知であり、母や妹から学びました。

『ディカーニカ近郷夜話』は、架空の人物ルードゥイ・パニコーが収集し、出版したという設定になっていますが、彼自体は架空の存在です。作品は大きく二部に分かれており、それぞれにルードゥイによる前置きが付されています。各作品には悪魔や魔法使いといったファンタジーの要素が色濃く描かれていますが、「イワン・フョードロヴィチ・シポーニカとその叔母」のみは日常的なテーマであり、他の話とは異なる趣を持っています。

各短編の内容

作品は全部で8篇から構成されており、各短編には独特な登場人物と物語が展開されます。

- ソロチンツィの定期市: 18歳の少女パラースカが初めての市で出会う恋愛劇と、その背後に潜む悪魔の存在がコミカルに描かれています。

- イワン・クパーラの前夜: コサックの青年ペトロと彼の恋人ピドールカの愛の物語。悪魔的な存在が絡まり複雑な運命を引き起こす様子を描写しています。

- 五月の夜、または身投げした話: 村長の息子レフコと彼の恋人ハンナの物語で、古い屋敷にまつわる伝説が織り交ぜられます。

- 消えた手紙: コサックの統領が悪魔と契約を結ぶが、その後起こる奇妙な出来事を通じて、幸運を取り戻すストーリーです。

- 降誕祭の前夜: 鍛冶屋のヴァクーラと村の女性オクサーナとの恋愛を描いた物語。悪魔の妨害を乗り越える姿が主なテーマです。

- 恐ろしき復讐: カチェリーナとダニーロの悲劇的な愛を描き、悪魔が関与することで展開される緊迫した物語です。

- イワン・フョードロヴィチ・シポーニカとその叔母: 事なかれ主義のイワンが叔母の計略に巻き込まれ、土地の真実を追求する様子が描かれています。

- 魔法のかかった土地: フォマー・グリゴーリエヴィチの祖父による、不思議な力による冒険が語られています。

作品の評価

本作は発表当初から好評を博し、ゴーゴリのキャリアの基盤となりました。1836年に第2版も出版され、多くの著名な文学者からも称賛の声が寄せられました。幻想と現実を融合させながら、ロマンティシズムとリアリズムが絶妙に交差するこの短編集は、後にオペラや映画など様々な形で再解釈され続けています。

一方で、後年のゴーゴリは本作に対してやや冷ややかな視点を持ち、評価を下げる発言もしています。現代の読者にとっては、以前ほどの魅力が感じられないとの意見も存在するため、作品に対する評価は時代とともに変わるものだと言えるでしょう。

本作を原作とする作品

『ディカーニカ近郷夜話』は、多くのオペラや映画の原作としても知られています。ピョートル・チャイコフスキーやモデスト・ムソルグスキーはそれぞれの作品にインスパイアされ、ゴーゴリの意義を受け継いでいます。また、映画においても数多くのアダプテーションが行われており、文学の力を感じさせます。

このように『ディカーニカ近郷夜話』は、ゴーゴリの創作精神とウクライナの豊かな文化を反映した重要な作品であり、後世にわたって評価され続けることでしょう。

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