ディストーション・シンセシス

ディストーション・シンセシス：音を歪ませる創造

ディストーション・シンセシスは、既存の音を非線形の電子回路や数学的な操作によって変化させ、より複雑で豊かな音を作り出すサウンド・シンセシス技術です。この手法は、多数の発振器を使う代わりに、倍音を多く含む周波数スペクトルを生成できる点が特徴です。

ディストーション・シンセシスの先駆者

コンピュータ音楽のパイオニア、マックス・マシューズと共に研究を行ったフランスの作曲家ジャン＝クロード・リセは、ディストーション手法の適用において注目すべき人物でした。彼の功績は、この技術の可能性を大きく広げました。

ディストーション・シンセシスの主な手法

ディストーション・シンセシスには、以下の主要な手法が含まれます。

1. FMシンセシス（周波数変調シンセシス）

FMシンセシスは、発振器のキャリア周波数を別の信号で変調させることで音を歪ませる手法です。変調の度合いは周波数変調指数で制御され、これにより複雑な音色変化を生み出すことができます。また、FMシンセシスに類似した手法として、フェーズディストーション・シンセシス（PD）があります。

2. ウェーブシェーピング・シンセシス

ウェーブシェーピング・シンセシスは、元の信号波形x(t)を非線形の振幅応答fで変化させる手法です。


y(t) = f(a(t)x(t))


この手法は、帯域制限されたスペクトルを生成でき、インデックス関数a(t)で連続的に制御可能です。身近な例としては、オーディオアンプのオーバードライブによるクリッピング歪みが挙げられます。なお、ウェーブテーブル・シンセシスとは異なる技術ですが、元波形が鋸波の場合は同一の結果となります。

3. 離散総和式シンセシス（DSF）

離散総和式（DSF）シンセシスは、目的とする波形形状を実現するために、多数の数の総和や加算を行う数式を利用するアルゴリズム的な合成手法です。この手法は、FMシンセシスと同様の方法で、例えば3つのフォルマントを持つ音声を合成できます。DSFは、調波または非調波による帯域制限付き、または制限なしのスペクトルを合成でき、指数によって制御可能です。この技術により、複雑なスペクトルのデジタル合成を少ないパラメータで実現し、効率的な音作りが可能です。

まとめ

ディストーション・シンセシスは、多様な手法を通じて、音の基本的な特性を変化させ、豊かな音色を作り出すことができます。FMシンセシス、ウェーブシェーピング、離散総和式シンセシスといった手法は、それぞれ異なるアプローチで音を歪ませ、複雑なサウンドデザインを可能にします。これらの技術は、音楽制作において、革新的な音色を作り出すための重要なツールとなっています。

参考文献

Dodge, Charles; Thomas A. Jerse (1997). “5. Synthesis Using Distortion Techniques”. Computer Music: Synthesis, Composition, and Performance. New York: Schirmer Books. pp. 115–168. ISBN 0-02-864682-7
Chowning, John; Bristow, David (1986). FM Theory & Applications - By Musicians For Musicians. Tokyo: Yamaha. ISBN 4-636-17482-8

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