ディルバート

ディルバート (Dilbert)とは

『ディルバート』は、スコット・アダムスによって描かれたアメリカのコマ割り漫画です。主人公はエンジニアのディルバートで、彼の日常を通して、技術系、事務系、管理的な職場での皮肉やユーモアが描かれています。

1989年4月16日に新聞掲載が開始され、単行本、テレビアニメ、コンピュータゲーム、そして関連商品など、多岐にわたる展開を見せています。作者のアダムスは、1997年にNational Cartoonist Societyのルーベン賞と新聞漫画賞を受賞しました。

この漫画は世界65カ国、2500の新聞に25の言語で掲載され、1.5億人の読者を抱えています。作品集やカレンダーを含む総発行部数は2000万部を超えます。

テーマ

当初、この漫画はディルバートと彼のペットであるドッグバートの家庭内での出来事を描いていました。初期のプロットは、ディルバートのエンジニアとしての特性や奇妙な発明品を中心に展開していました。しかし、後にドッグバートの誇大妄想的な野望がストーリーの中心となり、やがてディルバートの職場を舞台とした、情報産業の職場や企業の問題を皮肉る内容へと変化しました。

この漫画の人気は、多くの人々が共感できる職場環境を舞台にしていることに起因します。『ディルバート』は、企業文化を、自己目的化した官僚主義や生産性を阻害する経営が蔓延する、まるでカフカのような悪夢として描いています。従業員の能力や努力は評価されず、単に忙しいふりをするだけの仕事が重んじられる様子が描かれています。登場人物たちが、管理の誤りに対して明らかに愚かな決断をする場面に、多くのユーモアが見られます。

これまでに扱われたテーマ

エンジニアの個性
ファッションセンスの欠如
恋愛の不器用さ
工具やテクノロジー製品への偏愛
深い知識
無能で虐待的な管理職
現実を無視したスケジュール
成功に見返りがなく、怠惰が罰せられない状況
管理の失敗による従業員の失敗に対する処罰
コンピュータ管理
士気を低下させる環境
コミュニケーションの失敗
失敗が決定しているプロジェクト
薄弱または悪意のある理由に基づく人事管理
企業の官僚主義
大衆の愚かさ
広告の影響を受けやすさ
集団圧力への屈服
明らかな詐欺を信じること
第三世界諸国とのアウトソーシング（エルボニア国）
荒廃
奇妙な文化的習慣
資本主義への誤解

主な登場人物

ディルバート: 主人公である典型的な技術者。白いシャツ、黒いスラックス、そして不自然に上向きになった赤と黒のストライプのネクタイが特徴です。MITで電気工学の修士号を取得しており、技術的な知識は豊富ですが、社交的なスキルは欠けています。しばしば女性とのデートに挑みますが、奇妙な展開で終わることが多いです。コンピューターやテクノロジーが好きで、それらに時間を費やしています。

ドッグバート: ディルバートの飼い犬。誇大妄想的な知識人で、世界征服を企んでいます。コンサルタントとして働き、権力を乱用し、ディルバートの会社経営や特に上司を嘲笑します。人を騙したり、顧客から金を巻き上げたりすることを楽しんでいます。冷酷な外見ですが、飼い主を窮地から救うこともあります。初期の頃に比べて犬らしい行動は減りましたが、詐欺を働いた際には尻尾を振ることがあります。未来から来た年老いたディルバートから「陛下」と呼ばれており、将来的に世界を支配する可能性も示唆されています。大統領選にも度々出馬し、過激な公約を掲げて民衆を魅了します。

ラットバート: 元研究所の実験動物だったネズミ。楽観的で少々間抜けな性格ですが、時折鋭い観察眼を発揮します。派遣社員として、単調な仕事を任されることが多いです。当初はドッグバートに嫌われていましたが、後に仲間として認められます。

キャットバート: ディルバートの会社の人事部長を務める邪悪な猫。従業員が職を失うことを楽しみ、特にウォーリーを困らせるのが好きです。「レイオフ」という言葉を聞くと喉を鳴らします。

尖った髪のボス: ディルバートや他のエンジニアの上司。本名は不明です。管理能力が欠如していますが、専門用語を使って無能さを隠そうとします。従業員を軽蔑し、自分の利益のために利用します。倫理観が欠如している点が特徴です。作者のアダムスによれば、尖った髪は悪魔の角を連想させる意図があります。

ウォーリー: 古参のエンジニア。仕事を嫌い、常に避けています。コーヒーカップを手にしていることが多いです。道徳観がなく、自分の利益のために他人を利用します。怠惰で不潔な面もありますが、ディルバート、アリス、アショークのグループの一員として認識されています。

アリス: 有能な女性エンジニア。自分の仕事が正当に評価されないことに不満を感じています。怒りっぽく、時々上司に「死の拳骨」を使うこともあります。ピンクのスーツとフワフワの髪が特徴です。

アショーク: インドからのインターン。非常に勤勉ですが、正当に評価されることはありません。頭脳明晰ですが、企業経験が浅く、理想が打ち砕かれる場面が描かれます。インド工科大学を卒業しており、文化的な信念を踏みにじられることが多く、それらを指摘しても無視されます。

キャロル: 上司の秘書で、人間嫌いで冷酷な性格。上司や同僚を嫌っています。「地獄から来た秘書」として人気があり、独自のストーリーも展開されています。

フィル: 二流の悪魔。「光の不十分な世界の王子」とも呼ばれます。些細な悪事で人々を罰し、上司の兄弟であることが後に判明します。外見や持ち物には一貫性がないことがあります。

エルボニア人: 架空の第四世界の国民で、アウトソーシングのパロディとして登場します。西洋とは異なる文化を持ち、家父長制的な社会です。泥だらけの国で、高価なミネラルウォーターを使用する場面があります。作者は、エルボニアをアメリカ人がケーブルテレビのない国を想像する際のステレオタイプを基にしていると述べています。

恐竜ボブ: いたずら好きの恐竜。ディルバートの家に住んでおり、無能な同僚やセールスマンと仕事をする際に、いたずらをします。

ポップカルチャーへの影響

この漫画が企業社会で人気を博したことにより、ディルバートはビジネス雑誌や出版物で頻繁に利用されるようになりました。多くの新聞でビジネス面で他の漫画とは別に掲載されています。

職場の士気は、デスクや仕切り壁に貼られたディルバートの漫画の枚数に反比例するという理論があります。漫画が多く貼られている職場は、官僚主義的な管理に対する不満を示していると解釈されます。一方、漫画が全く貼られていない職場は、必ずしも士気が高いとは限らず、強権的な管理によって禁止されている可能性も指摘されています。

批判

ディルバートが企業社会の象徴として利用される一方で、その漫画が皮肉を込めた企業社会に受け入れられていることに対して批判も存在します。ノーマン・ソロモンは、この漫画がCEOを批判するには不十分で、労働者への配慮に欠けていると主張しています。また、ホワイトカラーの労働者がもっと敬意を払われるべきだという発想は、彼らが自由選択をしているという一般的な信念に反すると指摘されています。ディルバートが直面するダウンサイジングなどの圧力は、1970年代にハリー・ブレイバーマンによって予測されていたものだとされています。

ディルバートは、労働プロセスでの闘争を描くのではなく、上司を風刺するにとどまっていると批判されています。ピーター・ドラッカーとC・ライト・ミルズは、登場人物たちが協力して製品を作る一方で、互いに競争相手でもあるという矛盾点を指摘しています。この漫画は、このダブルバインドの犠牲者を風刺していますが、ソロモンは人々が現状に甘んじ、そこから抜け出す道を見つけようとしなくなることを懸念しています。しかし、これらの批判は、ディルバートが単なる娯楽として楽しまれているという側面を見過ごしている可能性も指摘されています。

ディルバートの法則

ディルバートの法則とは、企業が無能な従業員を管理職に昇進させるという風刺的な観測です。これは、有能な人材を現場から引き抜くことによる損害を最小限に抑えるためのものとされています。この法則は、スコット・アダムスによって提唱され、1996年のウォールストリート・ジャーナルで紹介されました。アダムスは、同名の書籍でこの法則についてさらに詳細に解説しました。

この法則は、従来の人事管理技術とは矛盾するものの、実業界で広く議論される問題点を風刺したものです。この理論は、実業界や管理層から一定の支持を得ており、例えば、元Appleのガイ・カワサキは「企業には2種類ある。自社がディルバートに似ていることを自覚しているもの、そしてディルバートに似ているがそれをまだ自覚していないもの。」と述べています。

ディルバートの法則は、ピーターの法則のバリエーションとして位置づけられます。ピーターの法則は、階層的な組織では、従業員は最終的に無能となる職位まで昇進するというものです。

外部リンク

公式ページ
DILBERT JAPAN WEB SITE
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