ディーアンドエムホールディングス

ディーアンドエムホールディングス：音響・映像機器業界の変遷を体現する企業

株式会社ディーアンドエムホールディングス（D&M Holdings Inc.）は、日本の音響機器・映像機器業界において、特異な歴史を持つ事業持株会社です。その設立は、旧日本コロムビアのAV部門から分社したデノンと、フィリップスから独立した日本マランツという、二つの名門ブランドの経営統合に遡ります。

設立と経営統合の経緯

2002年、リップルウッド（後のRHJインターナショナル）主導のもと、デノンと日本マランツは株式移転による経営統合を発表しました。この統合により、ディーアンドエムホールディングスが設立され、東京証券取引所2部市場に上場しました。この際、株式移転比率はデノンが0.4416、日本マランツが1と、一見日本マランツが有利に見えますが、デノンの発行済み株式数が圧倒的に多かったため、実質的にはリップルウッドによる両社の買収という形になりました。その後、2005年にはデノンと日本マランツはディーアンドエムホールディングスに吸収合併され、事業は同社の社内カンパニーとして継承されました。これにより、ディーアンドエムホールディングスは純粋持株会社ではなく、事業持株会社としての地位を確立しました。

ベインキャピタルによる買収と上場廃止

2008年、米国の投資ファンドであるベインキャピタルが、特別目的会社を通じてディーアンドエムホールディングスへの株式公開買付け（TOB）を実施し、友好的買収に成功しました。これにより、筆頭株主であったRHJインターナショナルは保有株式を売却し、大きな利益を得ました。このTOBの結果、ディーアンドエムホールディングスは上場廃止となりました。

Sound United LLC傘下へ

2017年、ディーアンドエムホールディングスは米国のSound United LLCに買収され、その傘下に入りました。Sound United LLCは、今後合弁会社を設立し、新生Sound Unitedとして、各ブランドビジネスを継続する意向を示しています。さらに、2022年にはSound United LLC自体がMasimoに買収され、現在に至ります。

ブランド共存戦略

ディーアンドエムホールディングスの特筆すべき点は、経営統合後も各ブランドの個性を尊重し、共存させている点です。デノンとマランツという、それぞれに歴史と格式を持つブランドを縮小・廃止するのではなく、市場で競合する製品を互いに発売し続けています。資材調達や営業部門は統合されている一方で、製品のキーパーツなどは各ブランドが独自に選定しており、各ブランドの特色を際立たせる戦略をとっています。これは、製造業における再編の常套手段であるコストダウンのための共通化とは一線を画しており、独特な経営手法として注目されています。

主なブランド

ディーアンドエムホールディングスが過去に所有していた、または現在も展開している主なブランドは以下の通りです。

DENON（デノン）： 日本電気音響をルーツとし、日本コロムビアが使用していた「デンオン」ブランドを受け継ぐ。
marantz（マランツ）： アメリカの高級オーディオブランド。
Boston Acoustics（ボストン・アコースティックス）： アメリカのスピーカーブランド。
D&M Professional（ディーアンドエム プロフェッショナル）： 業務用機器ブランド。2014年にinMusic社へ売却。
ALLEN & HEATH： 英国の業務用ミキシングコンソール・DJ機器ブランド。2014年に売却。
Calrec： 英国の放送局向け業務用ミキシングコンソールブランド。2014年に売却。
PREMIUM SOUND SOLUTIONS： カーオーディオのOEM供給ブランド。2014年に売却。
replayTV（リプレイTV）： デジタルビデオレコーダーブランド。2007年に売却。
mcIntosh（マッキントッシュ）:アメリカの高級オーディオブランド。2012年に傘下を離脱。
SNELL（スネル・アコースティックス）： アメリカの高級スピーカーブランド。
ESCIENT（エシェント）： ホームネットワークAVシステムブランド。
SUPERSCOPE（スーパースコープ）： 1970年代の日本マランツの親会社。
Rio（リオ）： デジタルオーディオプレーヤーブランド。2005年に撤退。
COLUMBIA（コロムビア）: 家庭用カラオケ機器や一部ゼネラルオーディオ製品に使用されていたブランド。

まとめ

ディーアンドエムホールディングスは、数々の変遷を経て、現在はSound United LLC傘下で事業を展開しています。設立当初から、各ブランドの個性を尊重する独特な経営戦略を貫き、音響・映像機器業界において独自の位置を確立しています。その歴史は、業界の変遷を象徴するものであり、今後の動向にも注目が集まります。

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