デイタイム・ナイトタイム・サファリング

「デイタイム・ナイトタイム・サファリング」（原題：Daytime Nighttime Suffering）は、ポール・マッカートニー率いるバンド、ウイングスによって1979年に制作された楽曲です。この曲は、同時期にリリースされたシングル『グッドナイト・トゥナイト』のカップリング曲として、世界中のリスナーに届けられました。

当初のリリース計画では、この「デイタイム・ナイトタイム・サファリング」がシングルのA面を飾る有力な候補として挙がっていました。しかし、当時の音楽市場の動向を鑑み、よりキャッチーで商業的な成功が見込めると判断されたディスコ調の楽曲『グッドナイト・トゥナイト』が最終的にA面に選ばれたため、本楽曲は惜しくもB面としての発表となりました。それでも、この曲は単なるカップリングに留まらない、ポール自身が特別な愛着を持つ一曲として知られています。

この楽曲は、その内容においてもいくつかのユニークな特徴を持っています。まず、歌詞についてですが、ポール・マッカートニー自身がこの曲に言及する際、女性への賛歌として書かれたものであることを明確に述べています。日々の生活の中で様々な困難に立ち向かう女性たちの強さや、それによって生まれる葛藤や苦しみに寄り添うような、共感を呼ぶテーマが描かれていると考えられます。

音楽的な構成やサウンド面でも興味深い点があります。特に注目されるのが、楽曲の後半、正確には2度目のミドルエイトと呼ばれる部分に入る直前の2分4秒付近に挿入されている効果音です。これは、当時まだ1歳という幼さであったポールの息子、ジェームズ・マッカートニー氏の泣き声が録音されたものだと言われています。このようなプライベートな、家族の音源を楽曲に取り入れる手法は、この曲にパーソナルな暖かみや、人間的な感情のリアリティをもたらす要素として機能しています。

ポール・マッカートニーは、数ある自身の作品群の中でもこの「デイタイム・ナイトタイム・サファリング」を特にお気に入りの一つとして挙げています。作曲者本人がこれほどまでに愛着を示す楽曲でありながらも、意外なことにウイングス時代、あるいはその後のソロ活動を含め、現在に至るまで一度も公式なライブステージで演奏された記録が確認されていません。このギャップは、ファンの間ではしばしば話題に上り、なぜこれほど愛されている楽曲がライブで披露されないのか、様々な憶測を呼んでいます。おそらく、楽曲の持つ内省的な雰囲気や、スタジオ録音ならではの特別な要素（息子さんの声など）が、ライブでの再現を難しくしているのかもしれません。

オリジナル発表時はシングルのB面という地味な位置づけでしたが、後年にはいくつかの重要なアルバムやコンピレーション盤に収録され、再び多くの音楽ファンの耳に届く機会を得ました。例えば、「ポール・マッカートニー・コレクションシリーズ」の一環として再発されたアルバム『バック・トゥ・ジ・エッグ』のCD盤には、ボーナストラックとして追加収録されています。さらに、2001年にリリースされたウイングスのキャリアを網羅するベスト盤『夢の翼〜ヒッツ&ヒストリー〜』のDisc 2にも主要な楽曲と並んで収められており、シングルのB面曲としては異例とも言える扱われ方をされています。これらの再収録により、リアルタイムでこの曲を知らなかった世代のリスナーにもその存在が認知され、「隠れた名曲」としての評価を確立していったと言えるでしょう。

「デイタイム・ナイトタイム・サファリング」は、商業的な判断からA面を逃したものの、ポールの個人的なお気に入りであり、感動的な歌詞や息子さんの泣き声というユニークな要素を持つ、ウイングスの楽曲の中でも特に味わい深い一曲として、今なお多くのファンに愛され続けています。

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