デイリー・テレグラフ事件

デイリー・テレグラフ事件

デイリー・テレグラフ事件（Daily-Telegraph-Affäre）は、1908年10月28日にイギリスの新聞『デイリー・テレグラフ』に掲載されたドイツ皇帝ヴィルヘルム2世とイギリス陸軍のワートリー大佐との対談に起因する大規模なスキャンダルです。この事件は両国の世論を激しく揺さぶり、結果的に外交関係に深刻な影響を与えることとなりました。

発生の経緯

事件は、ヴィルヘルム2世がイギリスに休暇で滞在中に、ワートリー大佐と個人的に数回の対談を持ったことから始まりました。ヴィルヘルム2世はイギリス王女ヴィクトリアの息子であり、英語を流暢に話す人でした。ワートリー大佐はインタビューの内容を恣意的にまとめ、それを『デイリー・テレグラフ』に送付したのです。新聞社は原稿をベルリンに送り、内容の確認を求めましたが、この時期、帝国宰相のビューローが休暇中であったため、内容確認の手続きが正しく行われなかった可能性があります。最終的には外務省の下級官吏が確認のサインをしてしまいました。この点については、ビューローが原稿を実際に確認していたかどうかは議論の余地があります。

インタビューの内容とその影響

ヴィルヘルム2世の発言は特に、以下の四つの点で国民の怒りを引き起こしました。
1. ドイツでの親英派の少数派としての立場、これが軍拡に対する英側の怒りを助長しているという主張。
2. ボーア戦争の際に、フランスとロシアの反英行動を受け入れたことを自慢する発言。
3. ボーア戦争での勝利を自らの戦争計画に帰する思い上がった表現。
4. ドイツの戦艦建造がイギリスに敵対するものではなく、極東に釘を刺すものであるという、日本を挑発しかねない発言。

これらの発言は、外交上の配慮不足と傲慢さを強調するもので、特に緊迫した国際情勢の中で多くの人々を驚愕させました。皇帝が不適切な発言を行った後、外交官としての役目に無頓着であることの象徴とされ、国民の不安感は高まりました。

事件の結果

事件の収束を試みる中で、宰相ビューローは辞職を願い出、さらにはヴィルヘルム2世の退位を求める声まで上がることとなりました。ビューローは宰相職を明け渡さなかったものの、事件の影響で皇帝から距離を置く姿勢を示しました。実際、ビューローと皇帝との間には、直接会談を行ったにもかかわらず、その後ビューローの辞職の一因ともなり、両者の関係はさらに悪化しました。

また、この事件によって、ドイツ国民は帝国憲法の不在を再認識することとなり、多くの国民が立憲君主制に対する疑念を抱き始めました。特に、これまで激しい支持を行っていたドイツ保守党さえも、皇帝の軽率さに憤慨しました。

日本においては、通常親独派が多かったにもかかわらず、ヴィルヘルム2世の発言によって反ドイツ感情が高まり、第一次世界大戦における対独参戦の一因となることを予感させる結果に繋がりました。

このように、デイリー・テレグラフ事件は国際関係において思わぬ波及効果を生じ、ウィルヘルム2世の外交政策とその後の歴史に深い影響を与える事例となりました。

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