デイヴィッド・ライク

デイヴィッド・エミル・ライク

デイヴィッド・エミル・ライク（David Emil Reich）は、1974年7月14日に生まれたアメリカ合衆国の著名な遺伝学者です。彼は、古代DNA解析という分野において、世界を牽引する先駆者として広く認識されており、現在はハーバード大学医学大学院で遺伝学の教授を務めています。その名前は、「デヴィッド」あるいは姓を「ライヒ」と表記されることもあります。

学歴およびキャリア

ライク教授は、まずハーバード大学を卒業した後、イギリスのオックスフォード大学セント・キャサリンズ・カレッジにて動物学の博士号（Ph.D.）を取得しました。彼の学術的な貢献の中でも特に画期的なのは、古代DNAデータの解析手法を飛躍的に進歩させ、従来の小規模な研究から、より大規模で包括的な「産業規模」とも称される研究へと発展させたことです。この功績が認められ、2015年には科学雑誌「ネイチャー」が選出する、その年の科学界における最も重要な10人の人物リストに名を連ねました。

学術機関以外でも、彼はマサチューセッツ工科大学とハーバード大学が共同運営するブロード研究所のアソシエイト研究員、また、ハワード・ヒューズ医学研究所の研究員を務めており、最先端の研究環境において活動を展開しています。

主な研究業績

ライク教授の研究の核心は、古代のDNA情報を解析することによって、人類の進化史や集団の移動、そして混合の過程を明らかにすることにあります。マックス・プランク進化人類学研究所に在籍していた際には、後にノーベル生理学・医学賞を受賞したスバンテ・ペーボ博士と共に、絶滅した古代人類であるネアンデルタール人やデニソワ人のゲノム解析プロジェクトにおいて中心的な役割を果たしました。

その後、彼はアメリカ国内において、古代DNAの全ゲノム研究に特化した最初期の研究室をハーバード大学内に設立しました。この研究室を拠点に、彼は特に人類集団間の「交雑」（混血）の歴史を深く掘り下げて研究しています。彼の研究チームは、古代の遺跡から出土した人骨などに残されたわずかなDNAを高度な技術で読み解くことにより、数万年にもわたる人類の歴史において、異なる集団間の混じり合いが頻繁に起こり、それが現代の人類の多様性や、各地域の歴史的形成に極めて重要な役割を果たしてきたことを、遺伝学的な証拠をもって明らかにしてきました。これにより、従来の考古学や歴史学だけでは見えなかった人類の過去の姿が、分子レベルからのアプローチによって再構築されています。

受賞歴

その先駆的で影響力の大きい研究成果に対して、ライク教授は国内外で数多くの権威ある賞を受賞しています。これらの受賞の多くは、古代DNA研究分野のパイオニアとして共に活動してきたスバンテ・ペーボ博士との共同受賞となっています。

2010年 - アメリカ科学振興協会ニューカム・クリーブランド賞（スバンテ・ペーボと共同）
2017年 - ダン・デイヴィッド賞（スバンテ・ペーボと共同）
2019年 - ワイリー賞（スバンテ・ペーボと共同）
2019年 - ダーウィン＝ウォレス・メダル（スバンテ・ペーボと共同）
2019年 - 米国科学アカデミー賞分子生物学部門
2021年 - マスリー賞（スバンテ・ペーボと共同）

これらの受賞は、彼の研究が科学界、特に遺伝学と人類学の分野に与えた大きなインパクトを物語っています。

著書

ライク教授は、専門家だけでなく一般読者にも彼の研究成果を広く伝えるための著書も執筆しています。代表的なものとして、古代DNA解析によって明らかになった人類史の新たな事実を解説した書籍があります。

『交雑する人類 　古代ＤＮＡが解き明かす新サピエンス史』
原題: Who We Are and How We Got Here (Oxford University Press, 2018)
* 日向やよい 訳、NHK出版より2018年に刊行されました（ISBN 978-4-14-081751-3）。

この書籍は、古代DNA研究がいかに私たちの祖先の歴史観や人類の多様性に対する理解を根本から変えつつあるかを、分かりやすく解説したもので、多くの読者に影響を与えています。

デイヴィッド・エミル・ライク教授の研究は、遺伝学、人類学、考古学といった従来の学問分野の垣根を越え、人類の起源、移動、そして現代社会を形作る多様な集団がいかにして生まれたのかという根源的な問いに対し、遺伝学的データに基づく確固たる証拠を提供し続けています。彼の研究は、今後も人類史研究に新たな光を当て続けることが期待されています。

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