デニス・プシーリン

デニス・プシーリンの生涯と政治活動

デニス・ウラジミロビッチ・プシーリン（Denis Vladimirovich Pushilin）は、1981年5月9日、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国（現ウクライナ）のドネツク地方マキイフカで生まれました。両親は地元の冶金工場で働く労働者であり、プシーリンは幼少期から青年期をこの地で過ごしました。1998年にマキイフカ・リケウムを卒業後、1999年から2000年にかけてウクライナ国家親衛隊に所属。その後、ドンバス国立土木建築アカデミーで企業経済学を学びましたが、卒業には至りませんでした。2002年から2006年までは貿易企業に勤務していました。

MMMへの関与

プシーリンの経歴で特筆すべきは、1990年代にポンジ・スキーム（出資金詐欺）で問題となったロシアの企業MMMへの関与です。2011年、MMM創設者のセルゲイ・マブロジが新たなポンジ・スキーム「МММグローバル」を立ち上げると、プシーリンは2013年まで、そのウクライナにおけるリーダーの一人として活動しました。プシーリン自身も、МММグローバルがピラミッドスキームであることを公に認めていました。

政治活動の開始

2012年、マブロジが新党МММを結成すると、プシーリンもこれに参加しました。この党は、ウクライナ語で「我らの目標は一つ」を意味する「Ми Маємо Мету」の頭文字から名付けられたとされています。2013年12月には、キーウ州の選挙区からウクライナ最高議会選挙に立候補しましたが、得票率はわずか0.08%にとどまり落選しました。この時の選挙活動では、ウクライナの国境線の変更やロシア人保護を主張するような動きは見られず、プシーリン自身もこの選挙を「実験のようなもの」と語っています。

ドネツク人民共和国での台頭

2014年2月以降、ウクライナ各地で親ロシア派による行政庁舎の占拠事件が発生。ドネツィクでは4月7日に州政府庁舎が占拠され、ドネツク人民共和国（DPR）の建国が宣言されました。プシーリンは当初無名の存在でしたが、この混乱の中で指導者として頭角を現しました。同年5月11日の住民投票で独立が支持されたと発表された後、プシーリンはロシアへの併合を求めました。同年5月19日には人民評議会議長に就任。プシーリンは、DPRが独立国家になるよりも、新たな「ロシア帝国」に加わることを望んでいると述べました。2014年6月には、側近がプシーリンと間違われて殺害されたり、自動車が爆破されたりと、暗殺未遂事件にも見舞われました。

首長代行、そして首長へ

プシーリンは、人民評議会議長を辞任した後も、副議長や議長を再任するなど、DPRで重要な役割を担い続けました。2018年8月31日、当時のDPR首長アレクサンドル・ザハルチェンコが暗殺されると、プシーリンは9月7日に首長代行に任命され、同年11月の選挙で正式に首長に就任しました。

ロシアとの連携強化とウクライナ侵攻

2021年12月、プシーリンはロシアの与党「統一ロシア」に入党。2022年2月には、ウクライナ軍との武力衝突の激化を背景に、総動員令を発令しました。同年2月21日には、ロシアとの友好協力相互支援協定に署名。プーチン大統領がDPRの独立を承認しました。2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻では、プシーリンはロシア軍に対し、「ロシア人が建設したロシアの都市を解放するよう」求めました。また、マリウポリを訪問し、人道支援活動を行いました。

ドネツク人民共和国のロシア編入

ウクライナ軍が東部地域で反攻を開始する中、プシーリンはDPRのロシア編入を急ぎ、2022年9月23日から27日にかけて住民投票を実施。賛成票が99.23%と非常に高い割合を示したことを受け、プシーリンは「素晴らしい結果」と評価しました。2022年9月30日には、ロシアがDPRを併合する条約に調印し、10月4日にはプシーリンが首長代行に任命されました。

プシーリンの現在

2023年現在、プシーリンはロシア連邦内のドネツク人民共和国の首長代行として、再建や住民への支援活動を続けています。また、ウクライナとの捕虜交換にも合意するなど、様々な活動を展開しています。

まとめ

デニス・プシーリンは、MMMのリーダーからドネツク人民共和国の指導者へと変貌を遂げた、波乱に満ちた経歴を持つ政治家です。親ロシア派の指導者として、独立国家の樹立からロシア編入まで、激動の時代を駆け抜けてきました。今後も、ロシアとウクライナの情勢において、重要な役割を担っていくことが予想されます。

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