デバルダ合金

デバルダ合金とは

デバルダ合金は、アルミニウム約45%、銅約50%、亜鉛約5%の組成を持つ合金です。主に化学分析において、硝酸塩の定量分析のための還元剤として利用されます。特にアルカリ条件下での蒸留によってアンモニアを除去した後に残る硝酸塩の分析に用いられます。

この合金の名前は、19世紀後半にチリの硝石を分析する新しい手法を開発する際に、この合金を合成したイタリアの化学者、アルトゥーロ・デヴァルダ（1859年 - 1944年）に由来します。

歴史と用途

イオンクロマトグラフィーが発展する以前、デバルダ合金は農学や土壌学において、硝酸塩の定量分析や定性分析に広く用いられていました。現在でも、世界中で主要な分析法として採用されています。デバルダ合金は窒素分析に不可欠ですが、市販品には微量の窒素が含まれているため、使用前に含有窒素量を分析し、窒素含有量の少ないものを選ぶ必要があります。

反応メカニズム

硝酸イオンを含む溶液と水酸化ナトリウム水溶液を混合し、そこにデバルダ合金を加えて穏やかに加熱撹拌すると、アンモニアガスが遊離します。この反応は、硝酸イオンをアンモニアの形に変換し、その後、ケルダール法によって全窒素を測定するために利用されます。

デバルダ合金による硝酸イオンの還元反応は、以下のようになります。


NO3- + 6H+ + 8e- → NH3 + 3H2O


この反応式は、硝酸イオンが水素イオンと電子を受け取り、アンモニアと水に変化することを示しています。

硝酸塩と亜硝酸塩の識別

硝酸塩と亜硝酸塩を識別するためには、硝酸塩に塩酸を加える必要があります。また、褐色環試験も識別に使用されます。

マーシュテストとの関連性

デバルダ合金は、湿式化学分析において、アルカリ条件下で発生期の水素を生成させるための還元剤として広く使用されます。同様に、マーシュテストはヒ素の定性分析に用いられ、亜鉛粉末が塩酸と反応して水素を発生させます。水素は、高いpHまたは低いpHの条件下で容易に生成でき、化学種の揮発性に応じて検出されます。マーシュテストでの酸性条件は、アルシンガスの除去を促進し、強アルカリ溶液では、還元されたアンモニアガスの除去を促進します。

発生期水素に関する議論

19世紀中頃から、真の発生期水素の存在については議論されてきました。この理論では、金属触媒がないと比較的弱い還元剤である分子状のH2よりも、反応性の高いフリーラジカルH・が、2つの水素原子がより安定な水素分子に再結合する前に還元剤として働く、と仮定されていました。発生期水素は、ヒ酸塩や硝酸塩の還元によってそれぞれアルシンやアンモニアが発生する反応の原因と考えられていました。しかし、今日の同位体比による研究では、この発生期水素の議論は、単なるロマンチックな思考の遺物であると結論付けられています。

関連文献

Cahen, Edward (1910). “A comparison of Pozzi-Escot's and Devarda's method for the estimation of nitrates”. The Analyst 35 (412): 307-308. doi:10.1039/AN9103500307.
Kieselbach, Richard (1944). “Microdetermination of nitrates by Devarda method”. Industrial & Engineering Chemistry Analytical Edition 16 (12): 764-766. doi:10.1021/i560136a017.

関連項目

硝酸態窒素
アンモニア態窒素
ラネー合金
褐色環反応
亜鉛–銅カップル

外部リンク

Devarda's alloy - Substance Summary (SID 24856330) (PubChem Substance)
Safety data for Devarda's alloy
Sigma Aldrich: Devarda’s alloy purum, for preparative purposes, grit
GFS Chemicals: Devarda's alloy, reagent (ACS)
National Pollutant Inventory - Copper and compounds fact sheet
* デバルダ合金 (試薬) JISK8653:2018

この解説を通じて、デバルダ合金に関する理解を深めていただければ幸いです。

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