デバルツェボの戦い

デバルツェボの戦い：戦略的要衝を巡る激戦

2015年1月14日から2月20日にかけて、ウクライナ東部のドンバス地方で、デバルツェボ市をめぐり激しい戦闘が繰り広げられました。この戦いは、親ロシア派分離主義勢力とウクライナ軍との間で発生し、最終的に分離主義勢力が勝利を収めました。デバルツェボは、ドネツク人民共和国（DPR）とルガンスク人民共和国（LPR）を結ぶ重要な交通の要衝であり、その支配権を巡って熾烈な争奪戦が展開されました。

背景

デバルツェボは、2014年のウクライナ騒乱の影響で、親ロシア派勢力によって一時占拠されました。しかし、同年7月にはウクライナ軍が奪還に成功し、2015年1月までその支配を維持していました。2014年9月には停戦合意であるミンスク協定が締結されたものの、デバルツェボ周辺では断続的な違反行為が続いていました。

戦闘の経過

2015年1月、デバルツェボには数千人のウクライナ軍が駐留していました。この都市は、DPRとLPRに挟まれたウクライナ領土の「くさび」のような位置にあり、鉄道と道路の重要な交差点でした。都市の住民の多くはすでに避難しており、街は荒廃していました。戦闘は、1月14日に分離派勢力がウクライナ軍陣地への砲撃を開始したことで本格化しました。

1月22日には、DPR軍がデバルツェボ周辺のウクライナ軍陣地を攻撃するとともに、市内の電気、水道、暖房を遮断しました。ウクライナ軍は都市の陣地を維持しましたが、分離派勢力は市街地への進撃を続けました。その後も激しい戦闘が続き、1月29日には分離派勢力がヴフレヒルスクを占領し、デバルツェボ防衛は一層困難になりました。

「大釜」の形成と包囲

1月30日には、デバルツェボとアルテーミウシクを結ぶ補給線が分断され、デバルツェボ周辺のウクライナ軍は包囲される危機に瀕しました。この包囲された状況は、「大釜（kettle）」と呼ばれるようになりました。2月2日には、アルテーミウシク・ハイウェイがほぼ通行不能となり、避難民を乗せたバスが砲撃されるなど、状況はさらに悪化しました。分離派勢力は、「大釜」からの脱出を試みる者は誰でも砲撃の標的になると警告しました。

停戦合意と戦闘の継続

2月12日には新たな停戦協定（ミンスクII）が締結されましたが、デバルツェボ周辺での戦闘は激化しました。分離派勢力は、停戦が発効する前に政府軍を排除しようと攻勢を強めました。デバルツェボはミンスクIIで言及されていなかったため、停戦協定の適用外だと主張しました。

2月13日には、重砲の集中砲火が都市を襲い、アルテーミウシク・ハイウェイも激しい砲撃を受けました。ウクライナ軍はロフビネ村の奪還を試みましたが、分離派勢力の待ち伏せに遭い、大きな損害を受けました。戦闘は2月14日まで継続し、アメリカ合衆国国務省はロシア連邦軍がデバルツェボ周辺に大量の火砲を配備していると非難しました。

ウクライナ軍の撤退

2月18日、ウクライナ軍は早朝にデバルツェボからの撤退を開始しました。撤退は秘密裏に準備され、軍用車両は分離派の注意をそらすために農道を通って移動しました。しかし、撤退部隊はすぐに分離派勢力からの攻撃を受け、大きな損害を被りました。多くの兵士が車両を放棄して徒歩で脱出を余儀なくされました。撤退は混乱を極め、多数の死傷者を出す結果となりました。

ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は撤退を「計画され組織だった」ものだと主張しましたが、地上部隊はそれに異を唱え、政府が状況について嘘をついていると非難しました。デバルツェボからの撤退は、イロヴァイスクの戦いに続く、ウクライナ軍の大きな敗北となりました。

戦いの教訓

この戦いを通じて、ロシア軍が情報収集能力と火力運用能力に長けていることが明らかになりました。一方、ウクライナ軍は敵の偵察を排除することができず、それが敗北の一因となったと評価されています。デバルツェボの戦いは、現代戦における情報収集の重要性と、迅速かつ効果的な火力運用の必要性を示す事例となりました。

戦後の状況

2月20日までに、分離派勢力はデバルツェボとその周辺地域を完全に支配しました。国際連合人道問題調整事務所（OCHA）は、戦闘後にデバルツェボの住宅と地下室で民間人500人の遺体を発見したと報告しました。街の中心部のほとんどの建物は破壊されたか、深刻な損傷を受けました。

この戦いでのウクライナ軍の死傷者数は公式には少なく発表されましたが、地上部隊は実際には数百人の死者が出たと主張しています。この戦いは、ウクライナ軍の指揮系統の脆弱性と、情報伝達の不備を浮き彫りにしました。

ギャラリー

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