デボラ・ハリー

デボラ・ハリー（Deborah Harry）は、1945年7月1日にアメリカで生まれた多才なアーティストです。「デビー・ハリー（Debbie Harry）」という名でも親しまれており、特にロックバンド「ブロンディ」のリードボーカルとして世界的な名声を確立しました。その象徴的なブロンドの髪と鮮やかな赤い唇は、彼女のトレードマークとして多くの人々に記憶されています。

彼女はフロリダ州マイアミで、アンジェラ・トリンブルという名でこの世に生を受けましたが、生後わずか3ヶ月でニュージャージー州ホーソーンに住むリチャード・ハリーとキャサリン・ハリー夫妻のもとへ養女として迎え入れられました。ハリー夫妻は地元でみやげ物屋を営んでおり、彼女はデボラ・アン・ハリーとして新たな名前を与えられ、そこで幼少期を過ごしました。学業では、1963年にホーソーン高校を卒業した後、1965年にはニュージャージー州ハケッツタウンにあるセンテナリー大学で学びを終えています。

1960年代後半、デボラはニューヨークへと活動の拠点を移し、様々な経験を積むことになります。表現の世界を目指す中で、BBCラジオの秘書として1年間勤務したほか、ナイトクラブ「マクシズ・カンザス・シティ」でウェイトレスを務めたり、ユニオンシティのディスコでゴーゴーダンサーとしてステージに立ったり、さらには「プレイボーイ」のバニーガールとして働いたりと、多岐にわたる職に就きながら生計を維持しました。これらの経験は、後の彼女のパフォーマンスやスタイルに影響を与えたと考えられます。

音楽キャリアは、フォークグループ「ウインド・イン・ザ・ウィロウズ」でバックシンガーを務めたことから始まりました。その後、1970年代初頭には3人組のガールグループ「スティレットーズ」に加わります。このスティレットーズのバックバンドメンバーであったクリス・スタインらとの出会いを経て、1974年に彼らと共に新たなロックバンド「ブロンディ」を結成する運びとなりました。

ブロンディは瞬く間に成功を収め、特にパンクとニューウェーブが交錯する当時のニューヨークの音楽シーンにおいて、そのキャッチーなメロディーとデボラのクールな魅力が異彩を放ちました。デボラ・ハリーは、バンドのフロントパーソンとして、その唯一無二のヴィジュアルと歌声、そしてカリスマ的なステージングで絶大な人気を獲得し、彼女の唇には巨額の保険がかけられるという伝説的なエピソードも生まれるほど、文化的なアイコンとしての地位を確立しました。

ブロンディでの成功を基盤に、デボラはソロアーティストとしても精力的な活動を展開していきます。1981年の『KooKoo』をはじめ、『Rockbird』『Def, Dumb & Blonde』など、合計5枚のスタジオアルバムを含むソロ作品をリリースし、ブロンディとはまた異なる音楽性を探求しました。ソロ活動中には、ブロンディ時代の楽曲も含むコンピレーションアルバムも複数発表しています。

また、1983年にはデイヴィッド・クローネンバーグ監督によるカルト映画『ヴィデオドローム』で主要キャストとしてスクリーンに登場し、女優としてのキャリアも本格的にスタートさせました。以降も精力的に俳優活動を続け、『ヘアスプレー』（1988年）、『ニューヨーク・ストーリー』（1989年）、『死ぬまでにしたい10のこと』（2003年）など、多数の映画やテレビドラマに出演し、表現者としての幅を広げています。

一度は活動を休止していたブロンディですが、1997年に再び集結し、現在に至るまで精力的に活動を続けています。デボラ・ハリーは、歌手、女優として多方面で活躍を続け、その革新的なスタイルとパフォーマンスによって、今なお多くのアーティストやファンに影響を与え続けている不世出のアイコンと言えるでしょう。

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