ヴィデオドローム

『ヴィデオドローム』（Videodrome）は、革新的な身体ホラーで知られるデイヴィッド・クローネンバーグ監督が1983年に発表したカナダ映画の傑作です。特に、後にアカデミー賞を何度も受賞するリック・ベイカーが手掛けた特殊メイクアップや視覚効果は、当時としては斬新で強烈な印象を与えました。

劇場公開は1983年2月に全米で行われましたが、当時の観客には受け入れられにくかったのか、約600万ドルの製作費に対して興行収入は約200万ドルと、商業的には成功しませんでした。しかし、その後ビデオソフト市場に登場すると、一部の熱狂的なファンによって支持され、カルト映画としての人気に火がつきました。現在では、各種ソフト販売、配信、放送、さらには4Kディレクターズカット版の公開など、様々なメディアで視聴可能であり、その際にはしばしば『ビデオドローム』という表記が用いられています。

あらすじ

物語の主人公は、小さなケーブルテレビ局「CIVIC-TV」の社長を務めるマックス・レン（ジェームズ・ウッズ）。彼は常に、視聴者の目を引くような刺激的な映像素材を探し求めており、特にセックスや暴力といった倫理的に問題のある、過激な内容の番組制作に執着していました。そんなある日、マックスは「ヴィデオドローム」と呼ばれる、どこから放送されているのかも分からない謎めいた海賊放送の存在を知ります。

この番組は、明確なストーリーラインを持たず、ただ延々と拷問や殺人の場面が繰り返されるという、いわゆるスナッフフィルムのような内容でした。しかし、その異常なまでの生々しさと迫力に、マックスは強い衝撃を受け、同時に抗いがたい魅力を感じてしまいます。社の優秀なエンジニアによる調査の結果、この放送は衛星中継を利用し、海外からの電波を装っていましたが、実際の発信源は国内のピッツバーグであることが判明します。まだごく一部の人間しかその存在を知らないと考えたマックスは、この「ヴィデオドローム」を何としても手に入れ、自局の目玉にしようと画策します。

しかし、「ヴィデオドローム」は誰が、どこで、どのような目的で作っているのか、その全てが謎に包まれていました。マックスが危険な映像へのめり込んでいく様子を見た周囲の人々は、彼にこれ以上深入りしないよう忠告しますが、マックスは耳を貸しません。たとえビデオの中の拷問や殺人が本物であると聞かされても、彼の興奮は高まる一方で、その衝動を抑えることができないのです。

マックスがビデオに魅せられていくのと同じ頃、彼のガールフレンドであるニッキー・ブランド（デボラ・ハリー）もまた、「ヴィデオドローム」がもたらす被虐的な体験への強い興味から、単身ピッツバーグへと向かい、番組への出演を試みます。ニッキーを取り戻そうと考えたマックスは、映像の生みの親と目されるオブリビアン教授への接触を試みますが、教授に会うことも、目的を伝えることもできませんでした。

しかしその後、教授から送られてきた一本のビデオテープによって、マックスは驚愕の真実を知らされることになります。そのテープには、「ヴィデオドローム」を視聴した者が体験する、現実が歪み変容していくという恐るべき現象が記録されていました。教授自身も既に映像の世界に取り込まれており、現実世界に戻ることは不可能だと語られていたのです。教授が語るイメージは既にマックスの前にも現れ始め、単なる幻覚では説明のつかない奇怪な現象が彼の身にも起こり始めていました。やがて「ヴィデオドローム」のイメージに完全に心を支配され、現実と幻覚の境界を見失ったマックスは、自身の肉体すらもグロテスクに変容させていくことになります。

キャスト

主要なキャストは以下の通りです。

マックス・レン：ジェームズ・ウッズ
ニッキー・ブランド：デボラ・ハリー
ビアンカ・オブリビアン：ソーニャ・スミッツ
ハーレン：ピーター・ドゥヴォルスキー
コンベックス：レスリー・カールソン
オブリビアン教授：ジャック・クレリー

評価

批評家の評価としては、レビュー集計サイトのRotten Tomatoesでは52件のレビューに基づき79%の支持率を得ており、平均点は10点満点中7.40点となっています。また、Metacriticでは6件のレビューを基にした加重平均値が100点満点中60点となっており、概ね一定の評価を得ていると言えます。

この作品は、メディアが人間の意識や肉体に与える影響、あるいは現実と虚構の境界といったテーマを、クローネンバーグ監督特有のグロテスクで生理的な視覚表現を通して探求しており、ビデオ時代が生んだ不朽のカルトクラシックとして今なお多くのファンに語り継がれています。

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