デルゴシチニブ

デルゴシチニブ（Delgocitinib）

デルゴシチニブは、アトピー性皮膚炎の治療に用いられる局所作用型の薬剤であり、製品名は「コレクチム軟膏」として広く知られています。この薬剤は、細胞内の情報伝達に関わる酵素群であるヤヌスキナーゼ（JAK）の働きを抑制する作用を持つことから、ヤヌスキナーゼ阻害薬（JAK阻害薬）に分類されます。これまでJAK阻害薬は、関節リウマチや潰瘍性大腸炎など、全身性の炎症性疾患に対する飲み薬として使われることが多かったのですが、デルゴシチニブはアトピー性皮膚炎という皮膚疾患に対して、皮膚に直接塗る外用薬として開発されました。この点が特徴的であり、アトピー性皮膚炎治療を目的とした外用JAK阻害薬としては世界で初めて承認された薬剤です。

効能・効果

デルゴシチニブ軟膏の適用は、アトピー性皮膚炎の治療に限られます。アトピー性皮膚炎に伴う皮膚の炎症やかゆみといった症状の改善を目的として使用されます。

製剤と承認状況

日本国内では、成人のアトピー性皮膚炎患者への使用を想定した0.5%濃度の軟膏が、2019年1月に承認申請され、翌2020年1月23日に製造販売承認を取得しました。これに続き、主に小児のアトピー性皮膚炎患者に配慮した低濃度製剤として、0.25%濃度の軟膏が2020年5月に承認申請されています。これにより、患者さんの年齢や症状に応じて、適切な濃度の製剤を選択できるようになっています。

用法・用量

本剤は患部の皮膚に直接塗布して使用します。成人の場合、通常は0.5%製剤を1日に2回、適量を患部に塗布します。1回の塗布量には目安があり、多すぎると吸収される量が増える可能性があるため、5gまでと定められています。

小児の場合、まず0.25%製剤を1日に2回、適量塗布することが推奨されます。ただし、症状が比較的重い場合など、医師の判断によっては成人と同じ0.5%製剤を1日2回塗布することも可能です。小児の場合も1回あたりの塗布量は5gまでとされていますが、体の大きさ、すなわち体格を十分に考慮して塗布量を調整する必要があります。

作用機序

デルゴシチニブの主な作用は、免疫細胞や炎症細胞の活性化に関わるJAKファミリーと呼ばれる酵素群（JAK1、JAK2、JAK3、TYK2）の全ての働きを抑えることにあります。アトピー性皮膚炎では、様々なサイトカイン（細胞間の情報伝達物質）が過剰に産生され、これらがJAK-STAT経路と呼ばれる細胞内の信号伝達経路を活性化することで炎症や免疫応答が引き起こされます。デルゴシチニブは、このJAKを阻害することで、サイトカインによるSTATのリン酸化、すなわち信号の伝達を遮断します。これにより、アトピー性皮膚炎に関与するT細胞、B細胞、肥満細胞、単球といった免疫細胞や炎症細胞の過剰な活性化を抑え、皮膚の炎症を鎮める効果を発揮します。

さらに、アトピー性皮膚炎患者さんが特に悩まされる「かゆみ」に対しても効果が期待されています。かゆみの原因となるサイトカインの一つにインターロイキン-31（IL-31）がありますが、デルゴシチニブはこのIL-31が引き起こすかゆみの信号伝達も抑制することが分かっています。皮膚の局所で作用するため、全身性の副作用のリスクを抑えつつ、炎症とかゆみの両方にアプローチできる点が利点です。

副作用

デルゴシチニブは免疫の働きを抑制する作用があるため、使用によって感染症にかかりやすくなる可能性が考えられます。これまでの臨床試験などでは、毛穴の周りに炎症が生じる毛包炎などが比較的高い頻度（約2.5%）で報告されています。現時点では、他の免疫抑制剤で問題となるような重篤な副作用は特に特定されていませんが、使用に際しては医師や薬剤師の指導を遵守し、体調の変化に注意することが重要です。もし気になる症状が現れた場合は、速やかに医療機関に相談してください。

関連情報

アトピー性皮膚炎の外用薬としては、長年にわたりステロイド外用薬やカルシニューリン阻害薬（例: タクロリムス軟膏）が主要な治療薬として使用されてきました。デルゴシチニブは、これらの薬剤とは異なるJAK阻害というメカニズムを持つ新しい選択肢となります。また、JAK阻害薬には、アブロシチニブのように内服して全身に作用するタイプも存在しますが、デルゴシチニブは皮膚に塗布する局所作用型の製剤であるという違いがあります。

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