デーヴィッド・ケイリン

デイヴィッド・ケイリン：細胞呼吸の謎を解き明かした生物学者

デイヴィッド・ケイリン（1887年3月21日-1963年2月27日）は、20世紀を代表するイギリスの生物学者です。彼の名は、細胞呼吸において中心的な役割を果たすヘムタンパク質、シトクロムの研究に深く結びついています。ケイリンはシトクロムを「再発見」したことで知られていますが、それ以上に、シトクロムの生物学的意義を解明し、細胞呼吸の理解に革命をもたらした点が彼の偉大さを物語っています。

モスクワからケンブリッジへ：波乱に満ちた若き日々

ケイリンはロシア帝国のモスクワで生まれました。幼少期に家族と共にワルシャワに移住しますが、喘息に悩まされ、10歳になるまで学校に通うことができませんでした。しかし、持ち前の才能と努力によって17歳でリエージュ大学に入学。その後、名門ケンブリッジ大学のモードリン・カレッジへ進学し、イギリス国籍を取得します。

ケンブリッジ大学では、初代クイック教授であったジョージ・ナトールの下で研究助手としてキャリアをスタートさせました。ナトール教授の薫陶を受けながら、昆虫学や寄生虫学の分野で研究を進め、寄生生物の生活史に関する数々の論文を発表。1914年から1923年のわずか10年間で、39本もの論文を執筆するなど、その研究活動は並外れたものでした。

シトクロムの再発見と細胞呼吸研究への貢献

ケイリンの研究人生における最大の業績は、なんと言ってもシトクロムの再発見でしょう。シトクロムは、実は1884年にチャールズ・マクマンによって既に発見されていた物質でした。しかし、マクマンの発見は当時、十分に評価されず、忘れ去られていました。

ケイリンは、シトクロムが細胞に広く分布しており、細胞呼吸において極めて重要な役割を担っていることを実験的に証明しました。彼の研究は、それまで謎に包まれていた細胞呼吸のメカニズムの解明に大きく貢献し、生化学、細胞生物学の発展に多大な影響を与えました。

数々の栄誉と功績

ケイリンの卓越した研究業績は、広く認められ、数々の賞を受賞しました。1926年には王立協会フェローに選出され、その後もクルーニアン・メダル、ロイヤル・メダル、コプリ・メダルなど、王立協会が授与する最高の栄誉を次々と受賞しました。1958年には、王立協会の最高峰の栄誉であるレーウェンフック講座で講演を行い、その業績は世界中に知れ渡ることとなります。さらに1959年にはアメリカ芸術科学アカデミー会員にも選出されています。

ケイリンの遺産

デイヴィッド・ケイリンは、シトクロムの再発見と細胞呼吸研究への貢献だけでなく、昆虫学や寄生虫学にも多大な貢献を果たしました。彼の残した論文や研究成果は、現在でも多くの研究者によって参照され、現代生物学の礎を築いた偉大な科学者として記憶されています。彼の生涯は、たゆまぬ探究心と、科学への飽くなき情熱がいかに重要な成果を生み出すのかを私たちに示す、素晴らしい実例と言えるでしょう。

参考文献
S. J. Ferguson. Keilin's Cytochromes: How Bacteria Use Them, Vary Them and Make Them. Biochem. Soc. Trans. (2001) 29, (629–640)
E. F. Hartree. Obituary Notice: David Keilin. Biochem J. 1963; 89(1): 1.b2–5.

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