トイチ

トイチ

トイチとは、主に貸金業の分野で使われる俗語で、二つの意味合いで用いられます。

1. 借入金利が「十日で一割」である状態、またはその法外な高金利そのものを指す言葉。
2. 形式的には貸金業登録を行っているものの、違法な高金利で貸し付けを行う、通称「ヤミ金」と呼ばれる悪質な業者を指す俗称。

本記事では、主に1.の意味、すなわち法外な高金利としての「トイチ」について解説します。

法外な金利「十日で一割」

「十日で一割」という言葉が示す通り、トイチは10日間で元金の1割に相当する利息が発生する金利体系です。これを年利に換算すると、単利計算でも年間365%という極めて高い利率になります。

日本の法律では、お金の貸し付けにおける上限金利が厳しく定められています。利息制限法では、元金に応じて年15%から20%が上限とされており、これを超える金利での契約は、超過部分が無効となります。借り手は法定上限を超える利息を支払う義務はありません。

さらに、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律（出資法）では、貸金業者が貸し付けられる上限金利が年20%と定められています。この上限を超える金利を設定することは法律違反であり、貸し手は刑事罰の対象となります（出資法第5条）。

トイチの年利365%は、これらの法定上限をはるかに超えるものであり、極めて悪質で違法性の高い金利体系と言えます。主に、法律を遵守しない無登録の業者や、形式的な登録はあっても違法な営業を行う「ヤミ金」によって利用されます。

複利計算による借金の膨張

トイチのような高金利がさらに恐ろしいのは、その多くが複利で計算される点です。複利とは、一定期間ごとに発生した利息を元金に組み込み、次の期間の利息を計算する方法です。これにより、雪だるま式に借金が膨れ上がっていきます。

例えば、元金100万円をトイチ（10日で1割）の複利で借り入れた場合の増え方を見てみましょう。

借入時：100万円
10日後：利息10万円発生。元利合計110万円。
20日後：前回の元利合計110万円に対し、1割の利息11万円が発生。元利合計121万円。
30日後：121万円に対し、利息12万1千円が発生。元利合計133万1千円。
100日後（約3ヶ月強）：元利合計は約259万円に。
200日後（約半年半）：元利合計は約672万円に。
360日後（約1年）：元利合計は約3091万円に。

このように、わずか1年足らずで元金が30倍以上に跳ね上がってしまう計算になります。実際の取引では、借り入れ時に最初の利息分が差し引かれて手渡される「手付」という形が取られることもあり、例えば100万円の契約でも手元に渡るのは90万円といったケースもあります。この場合、受け取った90万円に対して実質的な元金が100万円となり、さらに高い実質金利が適用されていることになります。

返済形態としては、10日ごとに全額返済する、利息だけ支払って元金を据え置く「スキップ」や「ジャンプ」と呼ばれる方法、あるいは元金の一部と利息を支払う方法などがあります。

その他の法外な高金利

トイチ以外にも、以下のようなさらに高率な違法金利が存在します。

トニ（10日で2割）- 単利年利730%、複利ではさらに高率。
トサン（10日で3割）- 単利年利1095%、複利ではさらに高率。
トヨン（10日で4割）- 単利年利1460%、複利ではさらに高率。
トゴ（10日で5割）- 単利年利1825%、複利ではさらに高率。
カラス金（1日1割）- 単利年利3650%、複利ではさらに高率。

これらの金利は全て法定上限を大きく超える違法金利であり、絶対に関わってはいけません。

違法金利に対する判例

このような違法な高金利業者からの借金に対して、日本の裁判所は厳しい判断を示しています。法定上限を超える利息の支払いは無効であることはもちろんですが、極めて悪質な高金利であるトイチなどについては、貸付行為そのものが公序良俗に反する「不法原因給付」（民法第708条）にあたるとして、借り手は元金すら返済する義務を負わない、とする判例も存在します（例：東京簡裁平成15年2月13日判決）。

また、既に支払ってしまった法定外の利息については、不当利得として業者に返還を請求できるとした判例もあります（例：東京簡裁平成14年10月24日判決）。

闇金融業者としての「都（1）」

冒頭で触れた「トイチ」のもう一つの意味合いは、特定のヤミ金業者を指す俗称です。これは、かつて東京都知事の貸金業登録を受けた業者のうち、登録番号が「東京都知事（1）第○○○○○号」のように「都（1）」から始まる業者のことを指していました。この「（1）」は、その業者の登録が初回であるか、または登録後3年以内であることを示していました。しかし、実際にはこれらの業者の中には、法外な金利を課す悪質なヤミ金が多く含まれていました。

彼らの多くは個人の登録であり、高金利が原因で登録を取り消されるケースが頻発しました。さらに、2010年に完全施行された改正貸金業法により、貸金業を行うには純資産が5000万円以上必要となるなど規制が強化された結果、多くの「都（1）」業者がこの要件を満たせず、登録を取り消されました。

まとめ

「トイチ」という言葉は、法定上限を遥かに超える違法な高金利、またはそれを用いる悪質なヤミ金業者を指します。このような金利は、短期間のうちに借金を天文学的な額に膨れ上がらせ、借り手の生活を破綻させるものです。法律で守られる権利を認識し、万が一関わってしまった場合は、速やかに弁護士や司法書士などの専門家、または公的な相談窓口に相談することが重要です。

関連語句

闇金融（ヤミ金）
悪徳商法

フィクションにおける登場

「トイチ」やそれ以上の違法金利は、悪質な金銭トラブルを描くフィクション作品でしばしば登場します。代表的なものとしては、『ミナミの帝王』、『ナニワ金融道』、『闇金ウシジマくん』などが挙げられます。これらの作品は、違法金利の恐ろしさやヤミ金の手口を知る上での参考となりますが、フィクションであることを理解し、現実世界での具体的な対処は必ず専門家や公的機関に相談してください。

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