トゥーケーシュ・ラースロー

トゥーケーシュ・ラースロー（Tőkés László、1952年 4月1日 - ）は、ルーマニア生まれのハンガリー人政治家、牧師です。改革派教会の司教、欧州議会議員、副議長を歴任し、1989年のルーマニア革命の重要な人物としても知られています。

生い立ちと教育

1952年、ルーマニアのクルージュ＝ナポカで生まれました。祖父と父も改革派教会の牧師であり、敬虔な家庭で育ちました。1971年に高校を卒業後、父が教鞭をとっていた神学研究所で学び、1975年に卒業しました。その後、ブラショフとデジの教会で牧師として勤務しました。

牧師としての活動

トゥーケーシュは、チャウシェスク政権を批判する活動を行いました。雑誌『Ellenpontok』（対比）に人権侵害に関する記事を寄稿し、政府の「体系化計画」に反対する説教を行いました。この計画は、小規模な村の解体、住民の強制移住、教会や修道院の破壊を伴うものであり、ハンガリー人の居住区に対する脅威と見なされました。トゥーケーシュの説教は、ルーマニア人とハンガリー人の連帯を呼びかけるものでした。

1988年、体系化計画に反対する団体を組織し、セクリターテ（秘密警察）の監視下に置かれました。1989年には、カナダ人ジャーナリストによる取材を受け、その映像がハンガリーで放送されたことがきっかけとなり、教会からの立ち退き命令を受けました。しかし、彼はこれを拒否し、教区民による支援を受けました。

ティミショアラでの抗議運動

1989年 12月15日、政府はトゥーケーシュに教区からの立ち退きを命じました。これに抗議する教区民が集まり、抗議運動は拡大しました。群衆は「チャウシェスクを倒せ！」「自由を！」と叫び、ルーマニアの国歌を歌いました。この抗議運動は、最終的にニコラエ・チャウシェスクの処刑につながる、ルーマニア革命の引き金となりました。

12月17日、チャウシェスクはトゥーケーシュを「外国の諜報組織による妨害」と非難し、軍隊による鎮圧を命じました。しかし、軍の一部は発砲を拒否し、混乱の中で多くの市民が犠牲となりました。12月20日、ティミショアラは共産主義から解放された最初の都市となり、抗議運動は全国に広がりました。

チャウシェスクの失脚

12月21日、チャウシェスクは首都ブクレシュティでの集会で演説を行いましたが、群衆からの反発を受けました。翌日、チャウシェスク夫妻はヘリコプターで逃亡しましたが、すぐに逮捕され、12月25日に処刑されました。チャウシェスクの処刑は、1989年のルーマニア革命の終結を告げるものでした。

司教としての活動

革命後、トゥーケーシュは改革派教会地区の司教に選出され、共産主義時代に破壊された教会の再建に尽力しました。ハンガリー語教育の重要性を強調し、オラデアにキリスト教大学を設立するなど、教育と社会福祉の分野で活躍しました。

政治活動

2007年、トゥーケーシュは欧州議会議員に無所属で立候補し、当選しました。その後、ハンガリー人民主同盟から再選され、欧州議会副議長も務めました。欧州の良心と共産主義に関するプラハ宣言の共同署名者でもあります。

2014年、フィデス＝ハンガリー市民同盟の党名簿で3番目の候補者として選出され、2019年の任期終了前に再選の意思がないことを表明しました。トゥーケーシュは、欧州人民党がキリスト教への信仰を放棄したと批判しました。

受賞と受勲の撤回

トゥーケーシュは、1990年に信教の自由における「4つの自由賞」を受賞し、2009年には「トルーマン＝リーガン自由勲章」を受勲しました。一方、2009年にルーマニア政府から授与された「ルーマニア星勲章」は、2016年にトランスィルヴァニアへの保護領としての地位を求める発言を理由に撤回されました。

民族主義的な活動

トゥーケーシュは、ルーマニア国内におけるハンガリー人自治権の拡大を主張し続けています。この活動は、ルーマニアの法執行機関から国家権力を弱体化させようとするものとして告発されたことがあります。ハンガリー語による銘板をルーマニア語のものに取り換えようとするなど、民族主義的な行動も多く見られます。

家族

妻のエディートとの間に息子2人、娘1人がいます。2010年に離婚していますが、これはトゥーケーシュの不倫が原因とされています。2013年に別の女性と再婚しています。

著書

トゥーケーシュは、自身の体験や思想をまとめた多くの著書を出版しています。主なものに、『With God, for the people』、『Temesvár ostroma 1989』などがあります。

まとめ

トゥーケーシュ・ラースローは、牧師、政治家としてだけでなく、ルーマニア革命の重要な人物としても知られています。彼の生涯は、宗教、政治、民族主義が複雑に絡み合ったものであり、その活動は今もなお議論を呼んでいます。

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