トゥー・ハーツ・ビート・アズ・ワン

「トゥー・ハーツ・ビート・アズ・ワン」：疾走する愛の歌

アイルランドが誇るロックバンド、U2が1983年に発表したサードアルバム『WAR(闘)』は、そのタイトルが示す通り、社会的・政治的なメッセージを強く打ち出した作品として知られています。しかし、このアルバムからシングルカットされた楽曲の中に、異色の輝きを放つ一曲があります。それが「トゥー・ハーツ・ビート・アズ・ワン」（Two Hearts Beat as One）です。

リリースと背景

この楽曲は、『WAR(闘)』からのセカンドシングルとして、イギリス、アメリカ、オーストラリア、そして日本といった限られた地域でリリースされました。同じアルバムに収録されている名曲「Sunday Bloody Sunday」がヨーロッパを中心にシングルカットされた際には、そのB面にも収められています。この時期のU2の楽曲としては珍しく、個人的な感情、それもストレートな愛を歌ったものであり、ボーカルのボノが自身のハネムーン中に手がけたというエピソードも、その背景を物語っています。

楽曲の試みと評価

「トゥー・ハーツ・ビート・アズ・ワン」は、疾走感あふれるサウンドが特徴的ですが、歌詞に含まれる「I can't stop the dance」（踊りを止められない）というフレーズや、楽曲から制作されたリミックスの存在は、当時のU2がダンスミュージックの要素を取り入れようとしていた可能性を示唆しています。しかしながら、音楽評論家のビル・グラハムなどが指摘するように、純粋なダンスナンバーとしての完成度においては、必ずしも成功しているとは言い難い側面もあるようです。ロックバンドとしてのU2の力強さと、ダンスビートとの融合は、この時期にはまだ模索段階だったのかもしれません。後に発表されたアルバム『Songs Of Innocence』のデラックス・エディションに収録されている楽曲「The Crystal Ballroom」は、この「トゥー・ハーツ・ビート・アズ・ワン」で試みられたダンス志向が、より洗練された形で結実した一例として挙げられることがあります。

ライブパフォーマンスと現在の位置づけ

発表後、この楽曲は『WAR』に伴うツアーや、それに続く『The Unforgettable Fire』ツアーにおいて、セットリストの定番として多くのステージで演奏されました。しかし、1989年12月27日に彼らのホームタウンであるダブリンのPoint Depotで行われた公演を最後に、ライブで披露される機会は途絶えています。30年以上にわたりセットリストから外れているため、U2の代表曲としては比較的「影が薄い」存在となってしまいましたが、その躍動感あふれるリズムとメロディは、今なお多くのファンによって隠れた佳曲として評価されています。

B面曲「Endless Deep」

シングルのB面には、「Endless Deep」という楽曲が収録されています。この曲は、ボノとベーシストのアダム・クレイトンが不在の中、ギタリストのエッジとドラマーのラリー・マレン・ジュニアによって制作されました。特筆すべきは、この楽曲がU2の公式なリリース曲の中で、唯一アダム・クレイトンがリードヴォーカルを務めているという点です。普段は寡黙なアダムの珍しい歌声を聞くことができるこの曲は、『WAR(闘)』のデラックス・エディションにも収められています。

プロモーションビデオ

「トゥー・ハーツ・ビート・アズ・ワン」にはプロモーションビデオも制作されました。監督はメイアート・エイヴィスが務め、フランス・パリのモンマルトルをロケ地として選んでいます。このビデオには、U2の初期のアルバムである『Boy』や『WAR(闘)』のジャケット写真で象徴的な存在となっていた少年、ピーター・ローウェンが出演しています。パリの街並みを背景にした映像は楽曲の雰囲気を視覚的に表現していますが、残念ながらこのPVは商業的なリリースはされていません。

カバーとその影響

この楽曲は、後に他のアーティストによってカバーもされています。例えば、アメリカのインディーロックバンド、Ra Ra Riot（ラ・ラ・ライオット）がカバーバージョンを披露しています。このようなカバーの存在は、時代を超えてこの楽曲が持つ魅力や影響力を示していると言えるでしょう。

ライブでの演奏機会は減りましたが、「トゥー・ハーツ・ビート・アズ・ワン」は、U2の初期衝動と、新しい音楽性への飽くなき探求心が交錯した時期を象徴する重要な一曲であり、今もなおその疾走感で聴く者を魅了し続けています。

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