トガ

トガ：古代ローマを象徴する衣裳

古代ローマにおいて、トガは男性が着用した一枚布の衣服です。白い羊毛で織られたこの衣裳は、下着であるトゥニカの上に身につけられていました。古代ギリシャのヒマティオンと類似点が見られますが、トガはヒマティオンよりもはるかに大きく、丈は2倍、幅は3倍近いとされています。ヒマティオンが男女兼用であったのに対し、トガは初期には男女ともに着用されていましたが、ローマで女性がストラを着用する習慣が定着すると、男性の衣服となりました。

トガの歴史：社会制度と密接な関係

トガの起源については、古代ギリシャのヒマティオンを模倣したという説や、イタリア半島にあったエトルリア文明の衣服が発展したという説が有力です。しかし、トガの最も重要な特徴は、社会制度と深く結びついていた点にあります。身分を象徴する衣装として、その歴史はローマ社会の変遷と深く関わっています。

ローマ共和政初期（紀元前6世紀～4世紀）には、比較的短いトガが主流でしたが、ローマの勢力が拡大するにつれて、トガは次第に大型化していきました。共和政末期（紀元前3世紀～1世紀）には、正式な公服として規定され、身分によって異なる形式のトガが着用されるようになりました。

ローマ帝国最盛期（紀元前27年以降）には、トガはさらに細かな形式の違いが生じ、豪華な装飾が施されるようになりました。しかし、庶民の間では、大型化による着用の煩わしさから、次第にトガは衰退していきました。帝国末期には、上流階級の一部でしか着用されなくなり、ビザンチン時代には、装飾品のロールムとしてその名残をとどめるのみとなりました。

トガの形状とサイズ：多様な説と最有力説

トガの形状については、長方形、楕円形など、諸説あります。大理石像などの考古学的資料から、八角形の布を半分に切ったような形をしていたという説が有力視されています。しかし、これは共和政末期の正装における形状に関する仮説であり、日常着やそれ以前のトガの形状については、依然として不明な点が多いです。

トガの長さは、短いもので3.7メートル、長いもので6.1メートルほどで、身長の約3倍に達しました。

トガの着用方法：複雑な手順と階級による差異

トガの着用方法は複雑でした。長い辺を折り畳み、約3分の1を左肩から前に垂らし、残りの布を背中から右腋の下を通して、再び左肩から背に垂らしました。帝国時代には、右腋下ではなく、右肩越しに布を回し、右腕を覆う着用法も増えました。

トガの襞（ひだ）：名称と着付け

トガには、様々な部分に個別の名称を持つ襞がありました。正装の際には、襞の取り方に細心の注意が払われました。前日に奴隷が、火熨斗のようなもので襞を整えていました。貴族の家には、着付けに熟練した専門の奴隷がいたとされています。

主な襞には、肩から胸にかけてのウンボー、肩にかかるプレキンタ、足元のラキヒア、背から腰にかけてのシヌスなどがあります。

フィブラ：トガを固定する留金

着用方法だけではトガは容易にずり落ちてしまうため、フィブラという留金、現代のブローチのようなもので布を固定していました。

トガのバリエーション：身分を示す様々なトガ

トガには、様々な種類がありました。ここでは、その一部を紹介します。

トガ・プッラ: 庶民が着用した、装飾のない淡い色のトガ。
トガ・プラ: 喪服として用いられた、黒または黒褐色のトガ。
トガ・トラベア: 下級神官、占術師、騎士が着用した、紫色のトガ。
トガ・プラエテクスタ: 貴族、執政官、神官が着用した、白地に紫色の縁取りがあるトガ。14～16歳の貴族の少年も着用しました。
トガ・ピクタ: 皇帝や凱旋パレードを行う将軍が着用した、赤紫地に金色の縁取りがある豪華なトガ。
トガ・カンディダ: 選挙に立候補する者が着用した、純白のトガ。

興味深いことに、ストラの着用が許されなかった女性、例えば娼婦や姦通罪を犯した女性は、トガを着用させられていたという記録も残っています。

参考文献

丹野郁編『西洋服飾史 増訂版』東京堂出版
千村典生『ファッションの歴史』鎌倉書房
菅原珠子『絵画・文芸に見るヨーロッパ服飾史』朝倉書店
深井晃子監修『カラー版世界服飾史』美術出版社

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