フィブラ

フィブラは、古代ギリシア・ローマ時代に男女が衣服を留めるために使用したブローチの一種です。別名フィビュールとも呼ばれます。
紀元前14世紀頃から、従来の留め針に代わって登場しました。青銅などの金属で作られ、長さは10センチ程度のものが一般的で、現代の安全ピンのような役割を果たしました。主にキトンやペプロス、マントなどを着用する際に留め具として使用されました。

歴史

ギリシアでは、フィブラはあくまで実用品として扱われ、装飾は控えめでした。しかし、ローマ時代に入ると、貴族の間で金銀製のフィブラが用いられるようになり、意匠は複雑化し、宝石や七宝細工などで飾られるようになりました。
ローマ帝国滅亡後も、ゴート人やゲルマン人などの手によって、中世に入る頃までフィブラは使用され続けました。

構造

フィブラの本体は、弓型または板状になっているのが特徴です。一方の端には、螺旋状のばねや小さな蝶番が取り付けられており、装着を容易にする工夫が凝らされています。反対側の端には、留め針を受け止めるための受け具が備わっています。
紀元前6世紀頃からは、本体の両側にばねを備えたタイプも登場しました。1世紀頃になると、ばねを覆うカバーが取り付けられるようになり、これにやや先行して蝶番タイプも現れました。留め針は、本体に直接取り付けられているものと、後からはめ込むタイプのものが存在します。

社会的意味

フィブラの装飾は、単なる装飾品としてだけでなく、その人の出身地域や、未婚の女性か既婚の女性か、戦士か、指導者かなど、社会的階級を示す役割も担っていました。装飾の種類や素材によって、着用者の身分や地位が明らかになったのです。

考古学

19世紀後半のスウェーデンの考古学者オスカル・モンテリウスは、青銅器文化におけるフィブラの型式を4期に分類しました。この研究は、型式学的研究法を用いた編年の先駆けとなり、考古学研究に大きな影響を与えました。

このように、フィブラは古代の衣服を留める実用品であると同時に、装飾品としての美しさ、社会的身分を示す道具、そして考古学研究の対象として、多角的な側面を持つ興味深いアイテムです。

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